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「東の海神 西の滄海」延王尚隆の政治と雁国作り

「東の海神 西の滄海」延王尚隆の雁国作り 読書録

「十二国記」シリーズの第四弾「東の海神 西の滄海」のご紹介。

小野不由美さんの「残穢」からはじまり、どっぷり彼女の作品にはまっている近頃です。

今は「十二国記」シリーズを読み進めているのですが、これがすこぶる面白い!

設定や世界観の緻密さに、読めば読むほどに十二国の魅力が深まっていきます。

今回ご紹介する「東の海神 西の滄海」は十二国の中でも、善政で長い間平和と秩序を保っている雁国のお話。

雁国の延王尚隆と延麒(麒麟)である六太の出会い、そして雁国が作られるまでの物語。

※ネタバレを含みます

【前巻についての記事】:「風の海 迷宮の岸」十二国記内での麒麟と王の関係性を深く知る

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「東の海神 西の滄海」延王尚隆の適材適所な雁国作り。

十二国屈指の善政と平和を保つ雁国

これまでの「十二国記」シリーズでも、「東の海神 西の滄海」の主人公である延王尚隆と延麒六太は度々出てきています。

尚隆が治める雁国は十二国の中でも屈指の善政がしかれ、500年の長きにわたる平和が保たれている国。

延王たる尚隆は王の間は老いることがないので、彼と六太はこの長い間、雁国の平和を守ってきたのです。

この「東の海神 西の滄海」ではその雁国ができたばかりのころのお話。どのようなはじまりから、尚隆が雁国を作っていたかが描かれています。

尚隆が延王となる前。雁国では前王たる梟王が治めていました。彼は長く善政をひくも、ある時から暴君となり、国を荒廃させてしまいます。

この「十二国記」の世界において、王と国との結びつきは、政治にとどまらず自然現象や農作物の育成にまで関連があるようです。梟王亡き後も、王を失った雁国は食物の不作など国民の生活は悲惨な状態に。

そんな荒廃しきった雁国で延王についた尚隆。民の暮らしも政治も不安定な雁国のシステム改革に着手します。

「東の海神 西の滄海」は尚隆の国家創業物語

あとがきにおいて、「バカの壁」などの名著を記した解剖学者の養老孟司さんが「東の海神 西の滄海」を尚隆と六太の国家創業物語と評しています。

国家創業とは言い得て妙。たしかに、物語は延王たる尚隆が雁国を新しく創り上げていく物語。

尚隆が即位したのは、前王の元で荒廃し、再建の見通しがまったくたたない雁国。

その日の暮らしもままならぬ民の生活を改善せねばなりませんし、また前王の暴政の元で腐敗し切った政治の部分も改革していく必要があります。

あちらを立てればこちらが立たずといったこともそれはあるでしょう。しかも、雁国は国としてもう後がないような状態。失敗はゆるされません。

そのような状況で、国家創業(再建?)するために尚隆がしたことはなかなか興味深いものがありました。

部下を信頼する上司、延王尚隆

ビジネス戦略

尚隆は基本的に、政治の細かな部分は自分が認めた役人たちにすべて任しています。

尚隆が行ったことといえば、腐敗し切った雁国の政治の中で、実力あるものを適材適所、しかも活躍しやすい状態で配置したということ。

「東の海神 西の滄海」でも詳しく語られていますが、その塩梅が絶妙。自らが認めた役人たちをいきなり上の方のポストにするのではなく、うまく周囲の者(腐敗した雁国において良いポストの甘い汁を貪っていた役人たち)から不平が出ない程度の位置に据え、なおかつ実権としては仕事をしやすいような場所に任用しています。

本来ならば、いままで甘い汁をすっていた役人たちまとめて首にしたいところでしょうが、それを入れ替えるだけの余裕も雁国にはありません。政治的に腐っている部分をいきなり切り取る余裕もない状態で、国力の回復を見据えながら、新しい力を育てていきます。

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最初の頃は尚隆は特に何もせず、ぐうたらと遊び歩いている感じ。しかし、読み進めるにつれて、肝心要のところだけ采配し、あとは自分が信頼する部下に任せるという有能な上司でもあることがわかってきました。

現実世界の会社などにおいても、ワンマン社長の元での経営には限界があります。上司が強権を振るい、部下を自分の思い通りに使おうとしてもそれはうまくいかないことが多いでしょう。それよりも、社員を信頼し、育て、個々の実力が適材適所で活かされている会社のほうが、総合的な発展は大きいかと思います。

「十二国記」の世界観では、王は政治などを超えた、天命によって選ばれた圧倒的なカリスマの存在。ものすごい権力を持っていても、それをむやみに行使せず、人を信頼し、任せるやり方をとる尚隆は名君と言えます。そしてそれができるのは、やはり人を見る目があってこそのものでしょう。

シムシティと三国志を混ぜたような

前巻の「風の海 迷宮の岸」では十二国での王の成り立ちについて詳しく説明された巻でもありました。一方「東の海神 西の滄海」ではそれのもう一歩先、政治や国づくりの話。どこかしら、シムシティや三国志を混ぜたような感想も持ちました。

民の暮らしに配慮しつつ、政治システムも改革していかなければならない。例えば「東の海神 西の滄海」で巻き起こる問題の原因ともいえる、地方諸官の権利について。前王の腐敗が地方の諸官に残る段階では、まだまだ任せ切れないものがあります。

しかし、それに対して不満も出てくるし、地方の社会インフラに対しても、中央政府のみでは限界が出てくる。

国を作っていく様子などはシムシティな感じがしますし、様々な政治的問題への配慮などは三国志的な複雑さも感じられました。人がたくさんいれば、それぞれの思惑が当然出てきますし、すべてがスムーズにいくわけではない。当然、後回しにされ、不満の出てくる部分もある。国づくりは全てが綺麗ごとで運ぶわけにはいかない。まして雁国のように荒廃し切った状態ならば、そうとう我慢を強いられる地域もあるでしょう。

そんな中で尚隆は清濁併せ呑み、大局を見据えながら国づくりを行っていきます。

斡由の謀反。「十二国記」の天帝は存在するのか?

失敗を認めない悪役「斡由」の謀反と偽善

へび

「東の海神 西の滄海」では雁国にある州の一つ「元州」の元州侯元魁の息子「斡由」が、いわゆるところの悪役。

この斡由というキャラクターの特徴として、失敗を認めないというところがあります。

失敗しそうなことは行わない、失敗を他人に平気でなすりつける、自らは失敗という汚点のない清廉潔白なものであると信じて疑わないようなキャラクター。

本書ではこの斡由が尚隆に謀反を起こすことが、物語の本筋。当初、斡由の行動は元州の民を思った上でのことのように描かれていますが、徐々にその偽善性があらわとなってきます。

こういう自らこそ正義であり、正しいと信じて疑わない人は今の世の中にも多くいますね。行動こそ違えど、モンスタークレーマーって斡由のような考え方の持ち主ではないでしょうか。

斡由は自らが王の上に立ち、雁国の政治を行おうとしますが最終的に目論みが外れ、また度量の小ささから失敗に終わります。

おそらく、この斡由という人は清濁合わせ呑むことができない人なのでしょう。自分の都合のいい筋道でしか、行動に移せない人。そこにイレギュラーは考慮されず、失敗に終わった時は、その行動すらなかったことにしてしまう。失敗を受け入れない人物。

国というものは人それぞれの意見が集約されるものであり、自ら想定した筋道通りにスムーズに物事が運ぶはずがありません。さまざまな不確定要素を考慮し、それも呑み込んだ上で大局を見据え行動をとれる尚隆の度量の大きさに斡由は敵うべきもなかったのでしょう。

「十二国記」における天帝は存在するのか?

宇宙

斡由が謀反を起こした理由の一つに、尚隆が本当に王としてふさわしいかと疑問に思ったことがあります。

「十二国記」においては、天帝という存在が言及され、麒麟に天命を下し王が選ばれるとされています。つまり尚隆のように王というのは天によって選ばれた存在。

しかし、シリーズにおいて、「東の海神 西の滄海」まで一度も天帝の姿というものは出てきていません。ただ、その存在が語られるのみ。

実際に天帝というものが存在するのか、しないのかもわからない状態。斡由そんな天帝の存在自体にも疑問を持ち、天命によって選ばれたという尚隆に疑問を持った次第。

雁国の延麒六太のように、麒麟や妖獣などが存在する十二国。そんな国であっても天帝は誰も見たことがない、伝説の存在として描かれています。

はたして天帝は実際に存在するのか。それとも麒麟が王を選ぶというのは自然現象の一つで、人がそれに対し、天命や天帝という存在を想像しているだけなのでしょうか。

この後の巻で天帝の存在が明らかになるのか?ますます今後の展開が楽しみになってきました。

【次巻についての記事】:「風の万里 黎明の空」少女たちの成長と王道ファンタジー【感想】
【前巻についての記事】:「風の海 迷宮の岸」十二国記内での麒麟と王の関係性を深く知る

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