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【感想】「風の万里 黎明の空」少女たちの成長と王道ファンタジー

読書録

小野不由美さんの大人気ファンタジーシリーズ「十二国記」にハマっています。

まさか、三十半ばを超えたこの年齢でハマろうとは。ファンタジーというジャンルながら、骨太の内容と緻密な世界観にぐいぐい引き込まれております。

今回は「十二国記」シリーズの五作目「風の万里 黎明の空」のご紹介。

これまで読んできたシリーズの中では、一番王道なファンタジー展開。

ただ甘ったるいファンタジーに終始するのではなく、そこに政治的な問題などからめることで、重厚な物語に仕上がっています。

過酷な運命の中で描かれる、少女たちの成長物語「風の万里 黎明の空」の感想をば。

※ネタバレ含みます

【前巻についての記事】:「東の海神 西の滄海」延王尚隆の政治と雁国作り

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【感想】「風の万里 黎明の空」は王道のファンタジー展開

「指輪物語」のような。これまでで一番ファンタジーらしい展開

「風の万里 黎明の空」は「十二国記」シリーズ二作目の「月の影 影の海」の続きとなる話。

「月の影 影の海」において景国の王となった陽子が主人公。景国の王となったはいいが、海客であり、また政治経験も無いため、国を修めるのに悩みます。

陽子の他にも二人の少女が物語の軸となります。元芳国の公主でありながらクーデターにより国を追われた祥瓊。もう一人は、陽子と同じく海客で十二国で過酷な状況の中生き延びてきた鈴。

陽子、祥瓊、鈴と三人の少女それぞれ物語が展開して行き、次第にそれらは絡み合っていく。

「風の万里 黎明の空」では主人公の成長物語や、仲間との絆と共闘が多く描かれています。今まで読んできたシリーズの中でも、いちばんファンタジーの王道展開を感じました。

「指輪物語」とかでもそうですが、仲間たちと協力し、危機を乗り越え、困難に打ち勝つという展開は胸にグッとくる。そうした中で成長していく登場人物たちに共感するっていうのが、ファンタジーの醍醐味だと思います(敵に打ち勝つという展開はファンタジー以外ではあまり無いですし)。

ある種、週刊少年ジャンプの三大原則「友情、努力、勝利」にも当てはまる展開。読んでいて、登場人物に共感し、応援し、そして敵に打ち勝った時に「よっしゃぁ!」となる爽快さも併せ持った物語でした。

政治的な緻密さが物語に厚みを持たせる

ビジネス戦略

「十二国記」シリーズはファンタジーながら、その世界観の緻密さが大人をも惹きつける要素となっています。

今回の「風の万里 黎明の空」も、ファンタジー的展開だけでなく、政治的な要素を巧みに練りこまれており、その部分が物語に厚みを持たせてくれています。

この物語における敵である昇紘など、明らかに腐敗し切った役人。シンプルに考えれば、陽子はそれを罷免する権限がありそうですがそれはできない。

景国が法治国家である以上、罷免に対する理由が必要ですし、様々な政治的要素がからまり合い一筋縄にはいかない。

特に陽子は王という立場にありながら、絶対的権限を生かしきれないもどかしさもあります。

そう、読んでいてとにかくもどかしい。「もっと王様なんだから、ズバッと決めて、悪い奴はとっとと罷免しろよ!」とも思うのですが、法治国家ってそう簡単にはいかないんですよね。

陽子は自分にふがいなさを感じているし、読んでいるこっちも「どうにかならんものか!」と憤る。まぁ、この憤り、鬱憤が前半にあるからこそ、後半での展開でより爽快感を味わえるのですが。

景国の政治は腐敗し切っている。メスを入れなければならないが、手の付けどころがわからない。現状の陽子では知識も胆力も政治力も足りない。圧倒的実力不足。

そういう現状を変えるため、陽子は一度宮廷を離れ、自己成長を促すため市中へと向かいます。

遠甫、楽俊、清秀。それぞれのメンターとの出会い

お地蔵さん

陽子は、景麒が手配してくれた遠甫という老人の元で、十二国の様々な事を学びます。宮廷にいただけでは、決してわからなかった生活、国、民のこと。遠甫はメンター(良き指導者)として、陽子に足りていなかった、あらゆる知識を教えて行き、彼女の成長によりそうのです。

一方、別パートでは祥瓊と鈴にも自分を成長させてくれるメンターとの出会いが。

そもそも祥瓊も鈴も現状に不満ばかりを持ち、自分でどうこうしようという気が無い、ある種の自己中心的な少女たち。二人とも、過酷な環境に放り込まれた結果、それらをこじらせています。

そん中で祥瓊には楽俊、鈴には清秀というメンター的(結果的に自己成長のきっかけをくれた)存在の出会いにより、二人の少女は徐々に「自ら行動する」ことの意味を学び始めるのでした。

やっぱりファンタジー、特に成長ものを描く場合にはメンターって超重要ですね。指輪物語でのガンダルフ、ハリーポッターでのダンブルドアなどなど。主人公を導き、成長させる重要な存在。

そしてファンタジーによくある通り、メンターは最後まで一緒にいてくれるわけではありません。遠甫、楽俊、清秀の三人も物語の途中少女たちからはなれることに。

しかし、離れてもそれぞれのメンターが残してくれたことは、少女たちの中で芽吹いて、自ら成長する力を身につけさせているのです。

「風の万里 黎明の空」は上下巻構成ですが、最初の頃と終わりごろでは三人の少女の考え方、ものの捉え方、そして行動のあり方すべてにおいて大きな変化が。自分の力で人生を獲得していく意味を掴み取っていました。

少女たちの成長物語は王道ファンタジー

立ち上がるイメージ。

「風の万里 黎明の空」を読んだ感想として、ファンタジーの王道でありながら、様々な面白い要素を詰め込んだ作品だなと。

ファンタジー的な成長、友情、勝利要素も豊富。そんな中に三国志的な政治、戦争のやりとりの面白さ、水戸黄門的な勧善懲悪の爽快さも含まれており、かなり幕の内弁当的バラエティーを感じました。

結構、複雑な展開もありますが、大筋としてはファンタジーの王道的面白さに満ちています。大人になっても、若い主人公が試練の中で成長して行き、困難に打ち勝つというファンタジーの王道展開は胸に迫るものがある。

この「十二国記」のように中華系の世界観をテンプレに、このような成長物語を今まで読んだことがなかったので、逆に目新しさも感じましたね(こういう成長系ファンタジーって、西洋的世界観が多い?)。

祥瓊と鈴から学ぶもの

また、「月の影 影の海」からの陽子の成長っぷりも見所。普通の女子高生だったのに、これだけの威厳が身につくとは(うまく行きすぎな感もなくは無いですが)。過酷な試練を乗り越えた先には、良かれ悪かれ大きな成長が伴います。

陽子の成長には、情けや思いやりみたいなものを捨てなければいけない場面も多かったでしょう。しかし、捨てたからこそ獲得できた強さが、景王としての資質をより高める結果となりました。

祥瓊と鈴に関しては、当初ここまで過酷に扱わなくてもという感想も持ちました。

自分の両親が目の前で虐殺され、直後王宮暮らしから厳しい農民暮らしとなった祥瓊。いきなり蝕によって十二国に流され、そこから100年間過酷な人生を歩んできた鈴。

二人とも、放り込まれた過酷な生活は、自業自得ではなく運が悪かったとしか言いようがないもの。それなのに、小野不由美さんはコテンパンな過酷さを二人に課しますね。

しかし、よく考えてみると、人生において理不尽な状況に追いやられるというのは、誰においても可能性のあるもの。そんな中で、ただただ運命を呪い、嘆き続けるのか。それとも自らの意思で改善に努めるのか。

祥瓊と鈴の成長の過程にこそ、よくよく感じ取らねばならない、人生訓がつまっているようにも感じます。

【次巻についての記事】:【感想】「丕緒の鳥」国を思い、働く人々の物語【十二国記】
【前巻についての記事】:「東の海神 西の滄海」延王尚隆の政治と雁国作り

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