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「風の海 迷宮の岸」十二国記内での麒麟と王の関係性を深く知る

読書録

まだまだどっぷりと小野不由美さんの「十二国記」シリーズにはまっています。

前回読んだ「月の影 影の海」に次ぐシリーズの三作目「風の海 迷宮の岸」。いやぁ、これもめちゃめちゃおもしろくて、一気に読んでしまいました。

前回までは残酷描写や血なまぐささ、悲惨な展開が多かったのに対して、かなり落ち着いた展開の章。

落ち着いている分、じっくりと「十二国記」の王政の仕組みや麒麟と王との関係性について説明がなされています。

「十二国記」の世界の理(ことわり)について理解を深める章「風の海 迷宮の岸」の紹介です。

※ ネタバレ含みます。

【前巻についての記事】:「月の影 影の海」小野不由美が作り出す「十二国記」の緻密な世界観

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「風の海 迷宮の岸」十二国記の王政の仕組み

「魔性の子」の前日譚「風の海 迷宮の岸」。

「風の海 迷宮の岸」は「十二国記」シリーズの三作目。シリーズ第一作「魔性の子」の前日譚を描いた作品です。

「魔性の子」の主人公の一人、高里は幼い頃に神隠しに会い、一年もの間失踪。その後戻ってきますが、失踪していた間の記憶を失っています。

「風の海 迷宮の岸」では、幼い頃の高里が神隠しにあっていた間、いったいどこで何をしていたのかという話。

それと同時に、「十二国記」の王政における、麒麟と王との関係やその特性が深く理解できる章でもあります。

前作までに比べほっとできる展開

本で世界が広がる

「風の海 迷宮の岸」は「魔性の子」や「月の影 影の海」に比べ、大分おとなし目の話。しかし、前の二つが相当悲惨だったり、残酷だったりする場面が多かったので、その分かなりほっとしながら読み進めることができました。

幼い頃の高里。彼は実は、戴国の麒麟であり、蝕(十二国記での災害現象)により、生まれる前に日本へと流され、人のことして生まれ育てられた。

十二国記の世界では麒麟は王を選ぶもっとも尊い存在であり、国政を行うために欠かすことのできぬ存在。よって幼い頃の高里は、神隠しにあっている間、十二国へと連れ戻され麒麟の教育を受けることに。それはやがて来る、王選びのためのものでした。

高里は戴の国の麒麟「泰麒」として、大いに歓迎を受け、蓬山で暮らす女仙達と共にしばし幸福な暮らしを送ることに(以下、高里は泰麒表記)。

まだまだ、幼い泰麒。日本へと流されていたので、本来麒麟が生まれながらに持つ特性を発揮できないことに苦しみつつも一歩一歩成長していきます。

泰麒の葛藤シーンはかなりありますが、基本的には十二国の仕組みや自分の運命を受け入れ、かつ楽しそうに過ごすところは私的に「あるべきところに帰れてよかったね」といった感想。

この後「魔性の子」でかなりしんどい、悲惨な境遇に立ち向かわなければならないかと思うとちょっと気が重くなったりもしますが、とりあえず「風の海 迷宮の岸」での泰麒が全般的に幸せそうなのにはほっとしました。

十二国記の麒麟の役割、天啓、王の成り立ち

シティー

「十二国記」の面白いところは、それぞれの国に一匹の麒麟(オスならば、メスならば麟)の存在がいて、それが王を選ぶというところです。

「月の影 影の海」などでも漠然とそのことが紹介されていましたが、「風の海 迷宮の岸」では麒麟という生き物がどういうものなのか、そして王を選ぶということがどういうことなのかの理解がより深まる章でした。

麒麟という生物の本能的な部分に、王を選ぶ能力(運命?)が備えられている。麒麟は天啓によって、これはと感じた者に頭を深く下げ、その者こそが国の王となる。そして麒麟は王以外には決して頭をさげることはない。

ある種、人為を超えた、自然の摂理のような部分、麒麟の天啓によって国の王を決めるというシステムに、小野不由美さんのこだわりが感じられます。

ファンタジーって、何も魔法や魔物がばんばんと出てこればいいってもんじゃない。そういう作品は他にも数多あり、目新しさを感じない。

しかし、「十二国記」においては、こういう世界の成り立ちの部分が緻密に設計されていることで、実際にその世界があるような、リアリティが感じられるのです。こういう部分にこだわっていることで、ファンタジーなんだけれども、嘘っぽさや子供っぽさをまったく感じさせない、骨太で読み応えのある作品に仕上がっています。

オリジナルの世界設定を細部までこだわる

パロディー漫画(主に手塚治虫絵)や「ウツヌケ」で有名な漫画家の田中圭一先生がこのようなツイートをされていました。

中二病の中でも主に男子が羅漢するといわれる「箱庭設定病」。たしかに、学生時代のころ、空想の世界を想像するときやたら設定にこだわっていたような気がします。

同じようなことを、「ヘルシング」や「ドリフターズ」で有名な漫画家の平野耕太さんもツイートを。

お二人のツイートはまさに「十二国記」にあてはまるな、と。

たとえば、麒麟が王を選ぶという設定があったとします。小野不由美さんの場合、この設定で「麒麟はどのように生まれるか」、「なぜ麒麟は王を選ぶか」、「麒麟が王を選ぶことによってどのようなメリットデメリットがあるか」などの設定を細部にまでこだわっています。

そこにこだわらななくても、おそらく物語は進行できる。しかし、そこにこだわるからこそ、そのファンタジーは唯一無二の質感を伴っていく。

「十二国記」の設定へのこだわりって、上記の中二病男子が羅漢する「箱庭設定病」そのものだなと(小野不由美さんは女性ですが)。私の勝手な想像ですが、こういう細かな設定にこだわっている時が一番楽しかったんじゃないかなって思いました。

十二国の理(ことわり)がわかる章

「風の海 迷宮の岸」は「十二国記」の世界の根幹たる王政の仕組みがどのように成り立っているのか、その理(ことわり)がわかる章です。

むしろ、この設定説明のためにこのストーリーがあるようなもの。しかし、面白いストーリーがあるからこそ、こだわりの設定がするすると入ってきました。

こういう設定をきっちりと、丁寧に描き上げることで、今後のストーリーにも一本筋の通った、深みのあるものになることでしょう。

麒麟は王以外に頭をさげぬという設定など、「魔性の子」内での高里が決して謝らなかった場面の回収にもなっており、色々と第一作への理解度も深まる設定。

魔物こそでてきますが、これといってアクションシーンなど派手な部分はありません。しかし、それでも読み応えのある章でありました。

「風の海 迷宮の岸」の後、泰麒はまた現代へと戻り、「魔性の子」で描かれる悲惨な目へと突入、そして再度十二国へ戻ってくるのでしょう。しかし、「月の影 影の海」においては泰麒は死亡、もしくは失踪と表現されていたので、いったいどうなるのやら。

まだまだ、この後読んでいない部分でその辺が解き明かされるのかも楽しみです。

【前巻についての記事】:「月の影 影の海」小野不由美が作り出す「十二国記」の緻密な世界観

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