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「四畳半タイムマシンブルース」【感想】森見登美彦新刊!

「四畳半タイムマシンブルース」森見登美彦の感想未分類

大好きな作家さんの一人、森見登美彦氏待望の新刊「四畳半タイムマシンブルース」が発売されました。

前作の「熱帯」はSFテイストの不思議な話でしたが、今作はまぎれもなく腐れ大学生の系統をうけつぐ阿呆な話。

「四畳半神話大系」や「夜は短し歩けよ乙女」好きの人にはきっとハマる内容となっています。

そんな「四畳半タイムマシンブルース」の感想をば記したいと思います。

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【感想】四畳半タイムマシンブルース。森見登美彦氏の新刊!

四畳半タイムマシンブルースのあらすじ

森見登美彦氏の新刊「四畳半タイムマシンブルース」とは原案である上田誠氏の劇「サマータイムマシン・ブルース」をベースに作られた小説です。その簡単なあらすじをば。

「四畳半神話大系」でもおなじみの主人公「私」。彼が住む下鴨幽水荘には伝説の209号室というものがある。そこは下鴨幽水荘で唯一クーラーが存在する部屋であった。

幸運にも、209号室に引越し出来た私。オンボロ四畳半でかろうじてクーラーという文明的な生活のできる209号室である日悲劇は起こる。

8月11日、私は密かに恋慕を抱いている明石さんが監督の、ポンコツ映画の製作を手伝っていた。下鴨幽水荘を舞台に癖の強いメンバーたちに振り回されつつも、なんとか映画撮影は終わった後事件は起こった。

人に害することを無上の喜びとする悪友の小津がクーラーのリモコンにコーラーをかけてしまい、壊してしまったのである。209号室のクーラーは本体に操作部はなく、もはや動かすことができない。リモコンを修理にだすが、ひどく古い型らしく修復不能とのこと。悲嘆にくれる私。

小津たちたとクーラーのお通夜と言う愚かしいことで夜を明かす。翌日、みなで片付けなどをしていた時、どこかで見たことのあるような謎の物体が現れる。それはどう見ても、国民的キャラクターである猫型ロボットが未来の世界からやってきた乗り物、すなわちタイムマシーンなのであった。

「よくできた作り物ですね」などといいつつ、小津はそれに乗りスイッチを押す。すると彼は一瞬にして消えてしまった。しばらくの後、またその場でに現れた小津。彼が言うには、これは本物のタイムマシンであり、自分は昨日にタイムスリップしたというのだ。

皆が疑る中、明石さんが昨日の映像チェックの時に小津が二人いたと証言。つまり、小津は本当にタイムスリップを行ったのだ。

そんな時、天啓が!昨日に戻れば壊れる前のリモコンを取ってこれるではないか!これは名案とばかりに、昨日にタイムスリップするのだが。。。あれっ?もしかしてタイムパラドックス起こっちゃわない?宇宙が崩壊しちゃわない?っという事実に気づき、、、そこからはじまるドタバタコメディー小説です。以上が簡単なあらすじとなります。

森見登美彦氏の真骨頂!腐れ大学生ものの系統

『夜は短し歩けよ乙女』 90秒予告

森見登美彦氏の小説といえば、大きく分けて腐れ大学生(四畳半、夜は短し歩けよ乙女、恋文の技術など)ものとホラー系(夜行、きつねのはなしなど)に分けられると思いますが、この「四畳半タイムマシンブルース」はあきらかに前者にわけられます。

腐れ大学生たちが、やたら小難しい言葉を使いつつ七転八倒しながらくりなすコメディー劇。森見氏の真骨頂はここだと感じさせる世界観(参考:「恋文の技術」まさに森見登美彦的!阿呆の名言)。

この「四畳半タイムマシンブルース」は登場人物たちも「四畳半神話大系」のものを引き継いでいますし、正当なる腐れ大学生ものといえるでしょう。

私、小津、樋口氏、明石さん、羽貫さん、城ヶ崎さん、相島さんなどなど。愛すべき面々が降らないようで大変などだばた劇に巻き込まれる姿は、見ていて爽快です。

初めて「四畳半神話大系」を読んだ時のあの感動がよみがえるようでした。

「四畳半タイムマシンブルース」の感想

私は原案となった「サマータイムマシン・ブルース」(映画化もされているうようです)の方は見たことがないのでストーリー自体初見で楽しめました。

タイムマシンものって大概一部を修正すると他の部分が辻褄があわなくなり、余計自体はややこしくなるというものが多いですが、その辺りを上手くコメディー仕立てにしているところが面白かったです。

ややこしくなりながらも、そうなることで物語冒頭に散りばめられた伏線をうまいこと回収していく形も見事。

目的もまた良い。人類を救うであるとか、大切な人の命を救うとかいう壮大なことではなく、クーラーのリモコンを取りに行くというなんともへっぽこな設定。物語自体は上田さんの原案のままだそうなので、よくこのヘンテコな設定を考えついたなと。

このへっぽこヘンテコな設定に四畳半のキャラクターたちがドンピシャ。特に小津と樋口氏がトリックスター的に、いろいろなところを引っ掻き回すのがよかったですね。余計なことをするせいで私がやきもきし、やらなければならない心配事が増えるという。

周りを一切気にせず自分のやりたいようにする人と、心配性で尻拭いに奔走される人の組み合わせは客観的に見てるぶんには喜劇になりやすいですね(自分が振り回されるのはご免こうむりますが)。

「四畳半タイムマシンブルース」の出版前に、森見登美彦氏と上田さんの対談というものがありました。

『四畳半タイムマシンブルース』発売記念対談 森見登美彦(著者)×上田誠(原案) | 対談・鼎談 | Book Bang -ブックバン-
森見登美彦の1年半ぶりの新作は『四畳半神話大系』とヨーロッパ企画の舞台「サマータイムマシン・ブルース」を融合させた長編小説。…

この中で森見氏は本作のことをこう書いています。

森見:もう逃げられないですからね。こういう言い方をすると上田さんに申し訳ないんですけど、いまはリハビリ期間中なんです。2018年に『熱帯』があまりにしんどかったんで、自分をほぐして原点に戻ろうと。その原点回帰の一本なわけです。いま行き詰まっている「シャーロック・ホームズの凱旋」もそう。
上田:二次創作的なところが共通しますね。
森見:そう。で、その先に控えているのが『有頂天家族』です。
上田:ずっと抱えておられる「宿題」。
森見:『有頂天家族』が最後にして最大の難関なわけです。ものすごい山。それさえ終わってしまえば、どうしても書かないといけないものはなくなる。引退してもいい(笑)。

腐れ大学生のような面白おかしい世界を描くにも相当苦労がいるよう。前作の「熱帯」も面白かったですが、あの作品を作るのにそうとう体力が削られたようです。

しかも、その先には腐れ大学生ものとは違いますが、阿呆の総本山「有頂天家族」の最終巻というとんでもない山がそびえている。三部作と銘打ったからには書かないわけにはいかない。

だからこそ、二次創作的要素の強い「四畳半タイムマシンブルース」を一回挟むことで、面白い世界を描く創作者としてのリハビリをしたのでしょう。自分の好きな作品がすでにあって、その世界を自分でもう一回描いてみる。そうすることで、創作の楽しみや感を磨こう的なことかと。

これって、庵野秀明さんにおける、「シン・エヴァンゲリオン劇場版:||」の前の「シン・ゴジラ」的な意味合いにも似てますね。庵野さんもエヴァを制作するにあたりものすごい苦労心労が重なり、なかなか新作に踏み出せなかった。一回別の作品を挟んだことで、ようやくエヴァの最終章へと向かうことができたみたいですし。

「四畳半タイムマシンブルース」は上田さんの原案がありながら、しっかりと森見ワールドに仕上がった作品でした。四畳半や夜は短しにどっぷり魅せられた人たちにきっと響く作品です。

上記のように、「四畳半タイムマシンブルース」をはさんだのち、さらなるステップアップされた「有頂天家族」もいまからたのしみでなりません。

森見氏の「熱帯」の感想もよろしければどうぞ!【感想】「熱帯」とは?森見登美彦の摩訶不思議な本をめぐる小説