ホラー映画というジャンルは、ある種の虜になる性質を持っています。「怖い!だけど見たい!」そんな中毒性が。
それぞれの映画に、それぞれの恐怖の仕掛けがあるのですが、その中でも多くの人を虜にしてやまないホラー映画に「シャイニング」という作品があります。言わずと知れた超名作!
ちょっと前に、シャイニングの双子の元ネタと言われている、ダイアン・アーバスという人の写真集を目にしたのですが、そこに写っている双子がなんとも印象的。
上記が双子の元ネタとされる写真。元ネタとされるダイアン・アーバスの写真も、シャイニングを知っているとかなり不気味な印象に。
この写真を見てふと思ったのが「なんでシャイニングってあんなに怖いんだろう?」っと。これといった幽霊や、スプラッターシーンも少ないですが、それでも精神的にじわじわと、つかみどころのない怖さが。それを突きとめたく考察してみました。
映画の様々な要素を分解しつつ、その怖さの秘密に迫ってみたいと思います。
(注意:ネタバレ含みます)
ホラー映画の金字塔「シャイニング」が怖い!
「シャイニング」のあらすじ
「シャイニング」の原作はホラーの帝王スティーブン・キングの小説です。映画の監督は「2001年宇宙の旅」などを撮り歴史的な巨匠として知られるスタンリー・キューブリック。
主人公は小説家志望のジャック・トランス。とある仕事で、数ヶ月の間真冬のホテルの管理人を務めることになります。
雪深いそのホテルは、冬場にボイラーを炊かないと支障が生じるそう。ジャックと妻とひとり息子の三人だけで、ひと冬の間そのホテルで過ごすことになりました。
そのホテルはかつて、同じように冬場の管理人をしていた男がおかしくなって、妻と双子の娘を惨殺し、自身も猟銃自殺したといういわくつきの場所。
ジャックはホテルの管理人をしながら、静かな環境で小説を書くことができると当初乗り気でした。
しかし、思うように創作は進まず。ストレスがたまっていき、妻や子供にもあたるように。
冬の隔離されたホテル生活。次第にジャックの精神は蝕まれ、様々なものを目にするようになっていきます。
そしてある時、ついにジャックの精神は限界を迎え…
映画のジャケットでも有名な、猟奇的な行動へと移っていきます。
狂気ともホラーともつかない、怖さ。ジャックが見るものは幽霊か幻影か。いたるところに、今見ても斬新な怖いしかけが満載。その怖さの秘密を考察していきます。
なぜ怖い?「シャイニング」その怖さ考察
なぜこんなに怖いのかを考察する
映画「シャイニング」はなぜこんなにも怖いのか?
たとえばスプラッターなどではもっとどぎついのがあるし、幽霊ものでももっとおどろおどろしい映画はたくさんあります。サイコ系のものでも精神的にズキズキくるような怖い作品だってある(「セブン」とか)。
しかし「シャイニング」にはそれらとはまったく異質な怖さを感じるのです。何かこう、一口では言えない怖さ。大まかにわければホラーなのだけれど、そこからどういうジャンルとして見ればいいのかもわからない。
怖さの一つ一つに、もっと奥行きのある別次元の魅力すら感じる映画。それを知るには、「シャイニング」を構成する怖さの要素を一つ一つ分解して見てみる必要があると感じました。
「シャイニング」の各要素を分解しながら、その怖さの理由を考察したいと思います。
超常現象としてのホラーの怖さ
「シャイニング」では超常現象が様々出て来ます。
たとえば、ひとり息子のダニーは意思疎通や未来予知など超能力を持っています(その能力をシャイニングという)。
また、ジャックが狂気に陥るにつれて、様々なものが見え出してきます。
いないはずのバーテンダー、風呂に入る裸の女性、パーティーの客、カクテルを給仕する死んだはずの前管理人。
最初はジャックの狂気が見せる幻影かと思いきや、どうも幽霊的なものみたい。物理的介入ができる、ホテルにすくう何か。
ジャックの手助けをすると見せかけつつ、家族全員を「あちらの世界」に取り込もうとする不気味さが怖いですね(ラスト、どうやらジャックだけ囚われたようですが)。
ホラー映画の定番中の定番、幽霊をはじめとした超常現象がストーリーに盛り込まれるのは、「シャイニング」の怖さのベースとなっています。
人間の狂気の怖さ
誰にも経験があると思いますが、ストレスがたまってくるとイライラしてきます。普段ならば何かしら発散の手立てはあるのでしょうが、ジャックのいる冬のホテルではあまりそれがありません。
しだいにストレスがたまっていっているのは明らか。そしてどんどんおかしな状態になってきているぞというのが画面から伝わってきます。「シャイニング」の場面が進むにつれて、狂気の度合いは増していき、、、。
幽霊なども怖いですが、それは現実的に存在するかしないかという不確かな部分の怖さです。
しかし、狂気は現実世界に確実にあり、体感的にイメージできるものだからこそ余計に怖い。
ジャックが狂気に染まるにつれ、次第に何をしでかすかわからない、時限爆弾のようにいつプチンといくかというドキドキの恐怖です。
音楽の怖さ
「シャイニング」では音楽がものすごく絶妙に使われています。全編にわたって、不気味な音楽がずっと続き、心理的な不安感に心休まるところがありません。
それがなんとも、閉ざされた冬のホテルの景色によく合う音楽(怖いという意味で)。
おそらく、映像を見ず、音楽だけ聴いていてもドキドキするような代物。逆に、無音で映像だけを観ると、怖さは半減してしまうことでしょう。「シャイニング」に使われている音楽はホラー映画のお手本のような、神経をざわつかせる素晴らしい効果を担っています。
密室の怖さ
ジャック達がいるのは冬のホテル。雪深く、下界には簡単に降りられません。
半ば強制的に家族三人、そこにいるしかない状態。なのに頼るべき、一家の大黒柱のジャックがストレスでどんどんおかしなことになっていく。
妻はホテル管理人を途中でやめ、下界に降りることもジャックに提案しますが「俺の責任はどうなるんだ!」とどなりだすしまつ。これが何かストレス発散の手立てでもあれば状況は違ってくるのでしょうが、雪山のホテルなだけにそれもなかなかありません(なおかつ小説のスランプというストレスフルなおまけ付き)。
ますます雪はつもり、どこへも行けない状態に。
映画後半にかけて、雪による密室度が高まり、それに比例するかのようにジャックも狂気に染まっていくので、どんどんと怖さが増していきます。
ジャック・ニコルソンの狂気!俳優陣の演技の怖さ
「ディパーテッド」でも思いましたが、やはりジャック・ニコルソンはぶっとんだ狂気の演技がうまい。
平常時でも怖い顔なのに、狂気に染まった演技は演技と思えない迫力。もう、もとからこういう人なんじゃないかと思ってしまうぐらい。
ジャックの子供も可愛い顔をしているだけに、なんだか不気味。恐怖の双子もよく見ると可愛いんだけど、二人並ぶとめちゃくちゃ怖い。
顔にとりわけクセの強い俳優陣たちの、鬼気迫る演技があるからこそ、この映画は歴史に残るホラーとして君臨しているのでしょう。
シンメトリー、無機質、双子などの怖さ
やたらとシンメトリー(左右対称)の映像が多い映画。
そのシンメトリーが無機質な不気味さを効果的に出しています。
シンメトリーって神殿など神聖な場所などでも使われており、安定感はあるのですが、この映画ではそれがなんとも怖い。
安定しているからこそ、それがいつか崩れるかもしれないという予感と無機質から感じる人間味のなさが怖いのかもしれません。
そして、「シャイニング」で怪奇現象の親玉ともいえる双子の少女が加わることで、このシンメトリーの不気味な恐怖は芸術的な境地に。
海外などだと、ハロウィンにこの双子の少女のコスプレをする人って大勢いるみたい。それぐらい、強烈な印象を残す存在。
Quick reminder that a few years ago Bruce Willis went to a Halloween party as one of the twins from The Shining. pic.twitter.com/YAF8fDVb0F
— Nick de Semlyen (@NickdeSemlyen) August 13, 2019
この映画にあのビジュアルの双子少女を持ってきたキューブリックの才能とセンスたるや!
おそらく、先に紹介したシャイニングの双子の元ネタ、ダイアン・アーバスの写真からなにかしら不安な、恐怖の要素を感じたのでしょう。それをこういう形でアウトプットするのは見事!
ホラー界のヒーロー(?)にジェイソンやフレディ、ペニーワイズ、レザーフェイスなど数多いますが、この双子の少女もセットでその序列に加われるインパクトの強さ。
ただ、可愛らしいお洋服を着た少女達なんですけどね。双子となるとどうしてここまで怖くなるのか。映像の効果も合わせ技あってのことなんでしょうけどね。
リブート版「キョンシー」にも双子の幽霊というのがでてきます。あれも怖いですが「シャイニング」の双子の不気味さの非ではないと思います(キョンシーの双子幽霊の元ネタはシャイニングの双子かも?)。
「キョンシー」
呪怨の清水崇監督。
あの霊幻道士が現代に復活。キョンシーとは全く別物と思ったほうがいいですw双子の幽霊メインの話。トンデモ展開すぎてツッコミ所満載ですがしっかりホラーしてます!映像表現はなかなか良い感じ! pic.twitter.com/nTkHt7oUy4— るる (@tiny_twin_bear2) September 5, 2015
とにかくシンメトリーの無機質さが「シャイニング」のもつ怖さを効果的にひきたてていると思います。
シャイニングに出てくる嫁が怖い!
今回久々に観て思ったのはジャック・トランスの嫁ウェンディ・トランスが怖いということ。
目元がくぼんでいるのに、ぎょろっとした目なのが印象的。
何かに似ているなと思ったら、ティム・バートンの描くキャラクター、特に「ナイトメアー・ビフォア・クリスマス」のサリーや「コープス・ブライド」の死体の花嫁エミリーにも似た怖さ。
ジャックが狂気に染まっていくにつれて、嫁のウェンディはどんどんいっぱいいっぱいになっていきます。その手詰まり感も怖い。
ジャックも息子も双子の女の子も怖いですが、改めてこの嫁の存在が怖さを引き立てているなと感じた次第であります。
考察の結論。「シャイニング」は複合的な怖さ
ここまで書いておいてなんですが、シャイニングの怖さは観てみないとわからない類のものです。
あの映像から伝わってくるものは、文章だけでは伝えきれない、言いようのない怖さ、そして不気味さ。
考察してみた結論として、その怖さの理由は上記に記したような要素の複合体であるのは確かでしょう。
何かが単体の場面やキャラクターが要因ではなく、幾重にも張り巡らされた要素が絡み合い、複雑な怖さを演出している。その複雑に構成された仕掛けこそが時代を経ても色褪せない、極上の怖さとなりえているのです。
一言では言い表せぬ怖さと魅力を持つからこそ、長年ホラー映画の定番として愛されているのでしょう(スピルバーグの「レディ・プレイヤー1」でも「シャイニング」の名場面が効果的に使われています)。
久々に「シャイニング」を観て、その怖さと面白さをつくづく感じさせられました。俳優陣、映像、構成、監督どれをとっても一流がゆえのクオリティです。
その気持ちが冷めないうちに書き記した私なりの考察。ご笑納くださいませませ。