私が全ての作家の中で一番敬愛している東海林さだお大先生のグルメエッセイ「丸かじりシリーズ」。
東海林さだお大先生の「ショージ君シリーズ」も最高に面白いのですが、この「丸かじりシリーズ」もとんでもなく面白い!どこまでも肩の力がぬけていく面白さ!
このサイトのテーマである寝る前の読書におすすめな本10選に東海林さだお先生の本が2種類も入っていますが、それほど世間にこの面白さを知らせたい作品です。
「ショージ君シリーズ」に関してはキングオブ庶民「ショージ君シリーズ」をご参照ください。
グルメエッセイ界の老舗「丸かじりシリーズ」のおすすめポイント
美味しそうだなぁと思う平和な時間
グルメについて思う時、人は平和になる。
ちまたのテレビ番組を見渡すと、1日のうちで何度もグルメ番組を目にするかと思います。
まるっとグルメ番組ではなくとも旅系、ご当地系、世界の文化を紹介系、情報番組系などでもかならずと言っていいほどグルメコーナーが組み込まれています。
予算があまりかからないなど造り手サイドの事情もあるでしょうが、これほどグルメ番組が多いのはなんといっても視聴者が求めているからでしょう。
グルメ番組を観ている時はとりあえず平和です。あまり鬼気迫った心理状態の時にあえてそういうものを見ようとも思わないでしょう。
また、グルメ番組を観ながら、不安になったり、激情したりといったこともあんまりないかと思います(ダイエット中に「飯に合う!超絶美味焼肉特集!」なんかを観ると激情、激昂してしまうかもしれませんが)。
何と言ってもグルメエッセイは気軽に読める
タレントさんが美味しそうな物を食べているのを見ながら、「あー、美味しそうだなぁ〜」っとボケーっとするところにそういう番組の良さがあります。
たとえば人気の衰えを見せない「孤独のグルメ」のドラマなんて、ストーリー的なものはあまりありませんが、松重豊さんの美味しそうな食べっぷりからかもしだされる平和な時間が大きな魅力でしょう。
グルメ番組を観る人がその番組にもとめるのは、つかの間の気楽で平和な時間であると言えるでしょう。
この「丸かじり」シリーズも全編気楽に読めるグルメエッセイ。気楽度で言えばこれほどおすすめできるエッセイは他にありません!
グルメ系読み物の老舗中の老舗
孤独のグルメを紹介しましたが、こちらも原作は漫画で90年代に描かれたにもかかわらず今でも根強い人気があります。
他にもグルメ漫画を見渡すと「美味しんぼ」、「クッキングパパ」、「深夜食堂」、「ミスター味っ子」、「ワカコ酒」など数多くあります。
以前「マツコの知らない世界」でマンガ飯の特集がありましたが、現在ではジャンルが細分化され、その種類もどんどん増えているよう。
こういうことから見ても食べ物系、グルメ系へのニーズが高いことがわかります。
さて、われらが「丸かじりシリーズ」。マンガでこそありませんが、漫画家東海林さだお大先生の描くグルメエッセイ界の頂点とも言える作品。
週刊朝日にて1987年から連載とありますから、すでに30年以上のキャリアを誇る老舗の大人気グルメエッセイです。
この30年間に食のトレンドは様変わりしてきましたが、その浮世の移り変わりを東海林節で面白おかしく書いているのがこの「丸かじりシリーズ」です。
寝る前読書に最もおすすめしたいグルメエッセイ
東海林さだおは鯖の味噌煮すら面白く書く
寝る前読書で選ぶ本は最終的な目的が気楽な気分になれて心地よく眠りにつくということにあります。
その点で言うとこの「丸かじりシリーズ」は本当に気楽な気分になれます。気楽な気分になれる度合いが他のグルメエッセイとは桁違い!
よくあるグルメエッセイのように、食べ物に関してあれがうまい、これがうまい、これはこう作る、ああ作るといった類のうんちくの多い(意識の高い?)エッセイとは全然違います。
たとえば鯖の味噌煮の回で言えば鯖の味噌煮を注文する人の人間性から家庭環境までを面白おかしく表現。
同じ鯖でもしめ鯖を頼む人はいいが、鯖の味噌煮を頼む人は一段下がった感じがするなど、いたるところで東海林節が炸裂!どんな視点で見ればこんな文章が思いつくのだろうという、まさに「丸かじりシリーズ」唯一無二の面白エッセイが展開されていきます。
名作「バナナの気配り上手」
私が好きな話で「バナナの気配り上手」というエッセイがあるのですが少し紹介させていただきます。
バナナというネーミングにもそれはあふれている。バナナは、バという荒々しい濁音で始まる。「バ」と言ってしまったあと、「出すぎたことをしてしまった」とバナナは後悔した。そして急に、ナナちゃんを連れてくることにしたのである。〜「鯛焼きの丸かじり」より〜
バナナに気配り上手という人間性(?)を証明するために、様々な特徴、食べやすい、持ちやすい、剥きやすいなどを並べた上で、とどめの上記の文です。
私はこの一文を見たとき度肝を抜かれました。バナナからナナちゃんを連れてくるという発想は、常人にはとても思いつかないウルトラCな視点です。
東海林さだお大先生のすごいところは、料理への視点は非常に独特でとんがっているのですが、それを文章にした時に読者にストンと腑に落ちるわかりやすさにあります。他の人が書いたら奇抜すぎだろうと感じてしまうような視点も最高の腕で読みやすくまとめ上げてくれています。
でてくる料理もたまーに高級料理もありますが(高級料理の時は、東海林大先生あらかじめ卑屈なで出してはじまります。高いもの食べてごめんなさい的な感じで。)基本は鯖の味噌煮、立ち食いそば、コロッケ、お刺身など庶民派な食べ物ばかりです。
「丸かじりシリーズ」は庶民派グルメエッセイの横綱
食べ物がとにかく庶民派なグルメエッセイ
グルメにまつわるエッセイや食べ物の随筆などは昔から多くあります。たとえば池波正太郎や北大路魯山人も素晴らしいエッセイ(随筆)を沢山残されています。
例えば美味しんぼにも影響。格調高いグルメエッセイ「北大路魯山人」という記事で魯山人を取り上げましたが、でてくる食べ物に若干高尚な感じもいなめません。
どこどこさんの鮎が素晴らしいであるとか、蕎麦の食べ方はこうでなければならないなどと言った、本当の意味でのグルメの視点が多いように思います。
内容は素晴らしいですし、面白くもあるのですがいまいちイマジネーションの点でピンとこない時も(出てくるものが豪華すぎる!)。
その点東海林大先生のエッセイは一度は食べたことのある、ごくごく身近、庶民派グルメがほとんですので、イマジネーションが広がりやすいです。
寝る前にリーズナブルながら魅惑的な庶民派グルメの世界にとっぷり浸かり、浮世の雑事を忘れたいという点でも「丸かじりシリーズ」はぴったりであると言えます。
すぐ読める、読みやすい、面白い!
「丸かじりシリーズ」は一つ一つの話が短く、3〜5分もあれば一話読めてしまいます。ですので「あと一話だけ読んでから寝よう」という寝る前の読書に最適な要素を兼ね備えています。
また、文章も非常に読みやすい文体なので、サクサクと頭を使わずすぐ読めてしまいます。ややこしい頭は使いませんが、イマジネーションは大いに膨らむので、日常の雑事をわすれて楽しめます。
そしてなにより面白いのです。これに尽きます。感情揺さぶり系、ガハハと大声出して笑う類の面白さではありませんが、可笑しく、幸せな気分になれる面白さなのです。
「丸かじりシリーズ」を読んでから寝ると、本当に心地よい気分で眠りにつくことができるので、寝る前読書のお供にものすごくおすすめです。
あえて難点をあげれば、飯テロエッセイ
最近飯テロという言葉がありますね。深夜などに料理の番組やウェブからおいしそうな食べ物の写真が流れてきて、食べたくてしょうがなくなるというやつ。
このエッセイも、読んでいると無性に題材になったものを食べたくなるものがあるのが難点といえば難点です。
寝る前などに「丸かじりエッセイ」を読んでいると、そのテーマの食べ物をを無性に食べたくなることも!また、東海林先生は食べ物を美味しそうに描く!よだれがあふれる、まさに飯テロ!
題材となるグルメも基本的に庶民派のものばかり。家を飛び出せばスーパーやコンビニで手にはいるものが多いので、寝る前に読むには悩ましいところもあります。
東海林先生は立ち食いそばがお好き
私は、東海林大先生の描かれる立ち食いそばの描写が好きで、出汁に浮かんでモロモロ状態になった天かすをジュルジュル啜り込むシーンなどはいてもたってもたまらない気持ちになります。
(大先生は立ち食いそばが好きなようで度々エッセイで出てきます。美味しいと評判の店に電車に乗ってでかけたのに、降りた駅の立ち食いそばの出汁の匂いに抗えず食べてしまった話などもあります。「偉いぞ!立ち食いそば」という本もあります)
東海林大先生のエッセイの魅力に擬音もあります。特に「丸かじりシーリーズ」など食べるシーンの多いグルメエッセイではその魅力が随所に!
先に挙げた立ち食いそばの「モロモロのジュルジュル」、ビールを飲むときの「んぐんぐ」など食べる描写の擬音が秀逸。ジョジョの奇妙な冒険の荒木先生と並び、擬音界のツートップだと私は勝手に考えています。
気楽なエッセイが好きな人たちへ
- 食べ物、グルメ番組が好きな人
- グルメマンガ、グルメエッセイが好きな人
- 3〜5ページほどの短い話が好きな人
- 食べ物のこと考えて気楽な気分になりたい人
- 普段あまり本を読まない人
普段からドラマの「孤独のグルメ」をよく見ている人などにもおすすめですね。お布団に入って、のんびりした気分で東海林節が繰り広げるめくるめく庶民グルメの世界、その食べ物に思いを馳せれば、幸せでのどかな気持ちで眠りにはいっていけることでしょう。
そして翌日のランチなどには、エッセイで描かれたものを食べて、イメージで、舌でと楽しんでみてください。
【その他おすすめグルメエッセイ】
・美味しんぼにも影響。格調高いグルメエッセイ「北大路魯山人」
・美味しんぼの山岡さんも推薦の料理随筆「土を喰ふ日々」
・粋な漫画家の人生を愉しむ食のエッセイ「杉浦日向子の食・道・楽」
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文春文庫版と朝日新聞出版版の違い
ちなみに、丸かじりシリーズは文春文庫版と朝日新聞出版版があります。
↓朝日新聞出版版
内容は同じなのですが、朝日新聞出版からまず出て、その数年後ぐらいに文春文庫版がでるといった流れです。
文春文庫版の方が軽いので寝る前読書にあっているし、装丁も和田誠さんが手がけられていてタイトルなどのセンスが良いです。今から集められる人は文春文庫版をオススメします。
ちなみにシリーズ第1作目は「タコの丸かじり」。集められる方はこちらからどうぞ!