私が最近、どっぷりはまっている「十二国記」シリーズ。
中国風でもありながら、小野不由美さんオリジナルの詳細な設定と世界観で構成された、唯一無二のファンタジー。
今回読んだのは、シリーズの7巻目「図南の翼」です。
5巻目の「風の万里 黎明の空」にちょこっとだけでていた供王である珠晶が主人公。
小説でもロードムービーというのでしょうか。旅の途中で成長していく過程が綴られた物語。
私の中で、これまでの「十二国記」シリーズとは違ったニュアンスを受けた「図南の翼」の紹介です。
※ネタバレ含みます
【前巻までの記事】:【感想】「丕緒の鳥」国を思い、働く人々の物語【十二国記】
ロードムービーな「図南の翼」珠晶の昇山と成長
珠晶の昇山と成長を描いた「図南の翼」
この「図南の翼」では主人公の珠晶が供王になるまでを描いたはなし。
「十二国記」ではそれぞれの国の王が非常に重要視されています。
王はただ、国を治めるだけでなく、天地気候や農作物の育成、妖魔の発生など、自然現象にまで大きく関わりのある存在。
そんな大切な王を長年欠いている恭国において、裕福な家庭の出である珠晶が昇山をすることを決意します。自らが王になるために。
昇山
これまでのシリーズでも、度々昇山のことが語られていますが、この「図南の翼」はそれについて詳しく描かれている巻。
この世界では、麒麟が王を選びます。その麒麟に選んでもらうべく、蓬山に登ることを昇山といいます(麒麟が自ら王を探しにいく場合もありますが、基本的には王になりたいものが昇山するシステムのよう)。
昇山したからといって、麒麟に選んでもらえるわけではありませんが、しかしわれこそはと思うものが危険をも顧みず蓬山のある黄海に入る。
いままでのシリーズでは昇山の詳しい内容については語られていませんでしが、「図南の翼」でその実態が。相当命がけのことのよう。
珠晶の他にも、大勢昇山するものがいましたが、その大多数が妖魔に襲われて命を落としています。
「図南の翼」におけるメンター
今回の主人公珠晶も、他の巻と同じく、試練を乗り越えて自己成長していきます。ファンタジーの王道といいますか、やはりそれにはメンターがつきもの。
「図南の翼」において珠晶のメンターとなるのが頑丘と利広。
二人ともタイプも違うし、その境遇も違いますが、まったく自分と違う価値観や生きるための力を持つ彼らに珠晶は反発を覚えつつも、次第にそこから色々学び取ることに。
黄海という環境もかなり影響していますね。妖魔がはびこり、いつ襲われるかわからない環境。
簡単には、人の住む町や土地には帰れない中で、どのように生き延びていくか。
当初の珠晶は人を助ける、思いやるという極めてまっとうな思いを行動規範としています。しかし、黄海という特殊な環境において、それは必ずしも正しいとは限りません。
一見非常とも思える頑丘の行動に珠晶は反発も覚えますが、昇山の過程で多くの過酷な経験をする中で、「正義とは絶対でない」というものを学んでいったように感じます。
これって、上に立つものにとってかなり重要なものかなと。人によって環境も、理念も考え方もまったく違う。そういう人々が寄り集まって社会となる。そんな中では柔軟な対応が求められるし、正しいこと(正義)は一つの形で表されるものではない。王であるためには、そういう柔軟さを知る必要があります。
かなり過酷な経験ですし、メンターもぶっきらぼうな感じもしますが、「図南の翼」では珠晶が王になるために極めて重要なことを学んでいく過程がうまく描かれていました。
【感想】ロードムービーなんだけど、いまいちハマらなかった
いままでのシリーズでは、一気に読み進めることが多かったのですが、今回の「図南の翼」ではちょと時間がかかりました。
なんだろう、面白くないわけではないが、いまいちハマらなかった?
ファンタジーの王道たるロードムービー的な展開でしたし、主人公の珠晶の成長なども、すごくよく描かれていた。妖魔の襲撃に対するどきどきなシーンも豊富だし、見所もたくさんあります。
ただ、ちいとばかし場面展開が少なすぎたかなと。そのほとんど昇山のシーンで、映画でいえばほとんど同じような風景がつづく。
たとえば「風の海 迷宮の岸」でもほとんど蓬山内のシーンが続きます。でもそこには部屋や庭などの場面転換がある。
しかし「図南の翼」の場合、頭にイメージする風景がずっと森の中なんですよ。緑、道、木々の繰り返し!なんか飽きてくる。馬車やテント、湖などの変化はあれども、基本的に森のイメージがつづくのはしんどかったです。
もう一つハマらなかった理由に、珠晶という主人公があります。12歳の女の子という設定と、その上から目線なキャラクターにいまいち共感が持てなかった。
「風の海 迷宮の岸」でも主人公の泰麒は小さな男のですが、それは麒麟という神秘的存在であるし、おとなしめな性格が物語の流れとうまくマッチしている気がした。
しかし、珠晶の勝気な性格は、黄海での危険な昇山途中において、トラブルを巻き起こします。もちろん、王としての成長と、様々なものを巻き込む力の一環として描かれていたのでしょうけどね。
面白くないことはなかった。しかし私的にそこまでハマる話ではなかったなというのが正直な感想です(「図南の翼」ファンの皆様には申し訳ありません!)。
もちろん「十二国記」シリーズの中では必要な話ですし(昇山の道程を知ることで、さらに世界観の厚みがます)見所もたくさんあります。このロードムービー的展開は、好きな人も多いでしょう。
一度シリーズ全部読み終わって、再度読み直してみてみるとまた違った見方できるかな?再読時に違う感想を持つかもしれないことに期待しときます。
【次巻についての記事】:【感想】「華胥の幽夢」責難は成事にあらずに思う事
【前巻までの記事】:【感想】「丕緒の鳥」国を思い、働く人々の物語【十二国記】