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「鬼談百景」小野不由美の百物語がべらぼうに怖い【短編ホラー集】

小野不由美の短編ホラー集「鬼談百景」は現代の百物語読書録

先日、「残穢」を読んでから、自分の中でプチ小野不由美さんブームが起こっています。

昔からホラー小説や映画、怖い話に怪談など大好き(怖がりだけど)なのですが、「残穢」は今までにないタイプの怖さ。

小野不由美さんの他の作品にも俄然興味が出て、まず最初に手をつけたのがこの「鬼談百景」です。

現代の百物語とも言える一冊。ホラーのマエストロ小野不由美が、短編の中に至極の恐怖を仕掛けています。

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小野不由美の「鬼談百景」は現代の百物語

小野不由美の短編ホラー集「鬼談百景」とは

「十二国記」などのファンタジーで人気を集めるとともに、ホラー作品でも数々の傑作を世に送り出している小野不由美さん。

「鬼談百景」はそんな小野不由美さんが雑誌「幽」に連載したものを単行本化した、短編ホラー集です。

体裁は実話怪談風に仕上げた小野さんオリジナルの怪異談。百物語にならって、99の至極の短編が詰め込まれています。

ひとつひとつの怪異談は小野不由美さんの創作(オリジナル)ホラーのはずなんだけれども、どれも実際にあったんじゃないかという妙なリアリティーのある怖さ。

それぞれの話に、怪異を体験した人の人生が透けて見えるような、そんな生々しい怖さが「鬼談百景」からは感じられます。

現代の百物語

「鬼談百景」は現代の百物語という体裁を取られています。

百物語の文化がいつ頃発生したのかはわかりませんが、少なくとも江戸時代にはすでに存在していたよう。

百物語では、怪談を百語り終えた時に化け物が出ると言われており、基本的には99話でやめておくのが通例だとか。

私が今まで読んできた百物語の本では杉浦日向子さんの「百物語」が傑作だと思っていましたが、小野不由美さんの「鬼談百景」も負けず劣らずの作品。

杉浦日向子さんの作品は、おそらく江戸時代に語り継がれた百物語をベースにした漫画なのに対し、小野不由美さんのはすべてが、彼女自身の創作。

現代の百物語たる99話のホラー短編(怪異談)を創作するとなると、質の低いものなど出てきそうですが、どれもそれぞれに特徴のある、クオリティーの高い怖さが含まれています。

一人の著者が数多くの短編を創作すると、途中テイストがパターン化して、だるくなったりする場合もありますが「鬼談百景」においては全くそんなことはありませんでした。

「残穢」にもつながる「鬼談百景」

私が、ここ数年来でもっとも恐怖した小説は小野不由美さんの「残穢」。部屋で起こる怪異の根の深さや穢れの概念は、小説の世界を超えた怖さのある作品でした

そんな「残穢」にもつながる、前史とも言える作品が「鬼談百景」にはいくつか収録されています。

「烏」、「お気に入り」、「欄間」などは「残穢」まさに前史と言える怪異談。

出版年代を見るとほぼ同時期に「残穢」と「鬼談百景」が出ているので、双方補完しあうような形で書いていったのではないかと思います(参考:「残穢」読了後に怖さの増すホラー小説と「穢れ」の概念)。

私がおすすめする「鬼談百景」の怖い作品

渋谷

「鬼談百景」にはいくつもの、芯から怖い短編ホラーが収録されていますが、その中でも私がグッときた作品をいくつかご紹介。

P57「胡麻の種」

「鬼談百景」の中でも最も短い文字数にあたる作品ですが、身の回りでも起こりうる薄気味の悪さと怖さがあります。

Sさんのお母さんが子供のころ、お祖母さんが胡麻の種を播いた。ところが時期になっても、ただの一つも芽が出ない。
近所の老人に「胡麻の芽が出なかったら、その種を蒔いた人は死ぬっていうがなあ」と言われた。「嫌なことを言う人だ」とお祖母さんは怒っていたが、果たしてその年、本当にお祖母さんは亡くなってしまった。
Sさんのお母さんは、胡麻の種だけは播きたくない、と今でも言う。

これは小野不由美さんの創作だとわかっていても、この作品を読んだ人は今後胡麻の種を播くことを躊躇するかもしれません(私も含めて)。

P247「踏切地蔵」

これも、じわじわとくる類の短編ホラー。

Kさんのお父さんは霊感があり、とある踏切には近づきたくないと言っていた。その踏切はよく事故の起こるところで、そばにはお地蔵さんが立っていた。

ある日、お父さんの友人が踏切で事故にあった。スクーターで立ち往生してしまい、電車に接触してしまったのだ。おじさんは跳ね飛ばされ、お地蔵さんに突っ込んだのだが、幸い大した怪我なく無事であった。しかし、お地蔵様は壊れてしまい、踏切脇には台座だけが残った。お父さんの友人は「お地蔵さんが身代わりになってくれたのかな」と言っていた。

通常ならば、壊れたお地蔵さんが新しく再建されそうなものだが、それから半年ほどたったが、そんな気配すらない。

また、あれほど事故の多発していた踏切だったが、お父さんの友人の事故以来、そこで事故があったという話はない。

お父さんは「あのお地蔵さんの前を通るのだけは、絶対に嫌だと思ってたんだよな」と言った。

お地蔵さんが身を守ってくれた系のいい話かと思えば、その逆だったという怪談。信じていたもの、安心して頼っていたものが、そうではなかった系の怖さってぞぞぞときます。

創作が次第に伝播して怪談となる

ホラー小説

現代の百物語たる「鬼談百景」では99話も短編ホラーがあるので、一つや二つは頭の中に残ることと思います。

たとえば夏場など、友達同士で怪談話をした時に、ここで覚えた話を披露する機会があるかもしれません。

話した人は、それは小野不由美さんの創作と知っていても、そのことを知らせなければ、今聞いた話が実話なのか違うのか聞いた人はわかりません。

そうやって怪談の出元がわからなくなってくると、そのお話の真意があやふやとなり、虚実交わる怖さを帯びてくるのです。

最初は小野不由美さん創作の短編ホラー。しかし次第に多くの人に伝播していくに従い、実話怪談とされ語り継がれる可能性だって高いです。

今も伝えられている怪談って、案外そういうものなのかもしれません。でも大元を探り当てるのでなく、あくまで素直に怖がった方が楽しいのかなとも。

人に話したくなる、そんな魔力を秘めた小野不由美さんの短編ホラー集「鬼談百景」でした。

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読書録
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