よく買う雑誌の一つに「BRUTUS(ブルータス)」があります。
毎回企画が面白いのと、良記事が多い、そしてどこでも手軽に買えるところが魅力(特に田舎民にとってはコンビニとかでも売っているのでありがたい)。
そんなBRUTUSですが、今回の特集が「ことば、の答え」というもの。
哲学、対談、欧州、場所、家訓、回文などなど。様々なアプローチから「ことば」というものの側面を見つめるという特集。
面白い組み合わせの方々の対談だったり、あの有名人の弔辞、そして名スピーチなど、ふむふむと唸らされるものから、思わず胸をじーんとさせるものまで幅広いことばが載っていました。
読書好きの人は、ストーリーだけでなく、何気無いフレーズやことばとかも好きだと思うので、おすすめした一冊です。
BRUTUS(ブルータス)特集「ことば、の答え」。ことばを様々な側面からさぐる
「ことばとは何か?」をいろいろ考える
ことば(言葉)ってなんだろう。我々は当たり前のように日々言葉を使っています。メインではコミュニケーションツールとして、時には人の心を震わせる芸術作品として、時には人生を変える思想として、ことばの使われ方って幅が広い。
しかも、現代はみんなスマホを手にし、四六時中情報を入手できる時代。これまでの時代よりもよりことばに触れる機会が増えています。
”活字離れ”といわれて久しいけれど、実は空前の活字中毒の時代なのかもしれない。そこで世の中に溢れているあらゆる種類の言葉の中から、掘れば掘るほど奥深いジャンルや賢人たちのことばのかけらを集めてみた。
とあります。
一口にことばといっても、範囲が広い。それではことばっていうのは何なのかについて、様々な側面からさぐったのが今回のBRUTUSの特集。
詩人の最果タヒさんのことばへの思いから、今回の特集「ことば、の答え」ははじまります。
ナイツVS内海桂子師匠、高田文夫VS佐久間宣行などの対談
今回のBRUTUS(ブルータス)「ことば、の答え」を手にとって購入にいたった一番のポイントは対談の場面。
特に「ナイツと内海桂子師匠との対談」と「高田文夫さんと佐久間宣行さんの対談」。このふた組の対談にぐぐぐっとひかれて購入した次第。お笑いが好きなもので。
特に内海桂子師匠なんて、ナイツとどんな対談をするのか?御歳97歳。日本漫才界、お笑い界の生き字引のようなお師匠さん。97歳ながらツイッターもやられていて、毎日1ツイートづつされています(フォローさせていただいております。味わい深いツイートですよ!)。
一寸ウトウトしていたら隣の亭主が地震が来ると私をつっつく。家が揺れだしたがすぐに止んだ。よく分かったわねと聞くとTVに地震警報が写りましたって。画面を見るが本放送の番組画面と一体化してよく分からない。とっさに思ったのはこういう緊急情報は画面一杯使ってはっきり表示しないとわからない。
— 内海桂子 (@utumikeiko) August 4, 2019
1ページほどの短い対談ながら、さらっとした言葉の中に長年の人生で積み上げてきた漫才論のようなものが含まれています。そんな内海桂子師匠とナイツの対談は時に冗談めいて、時に真面目だったりと読み物としておもしろかったです。
同じく対談の高田文夫先生と佐久間宣行(TV東京プロデューサー)もいい。ある種裏方に回りつつお笑いの世界を支えてきたお二方のやりとりはお笑い芸人さんたちの視点とは少し違う感じがします。
ことばを使って人を笑わせる芸人さんたち。そのことば、話芸のプロたちをより良いフィールドで活躍させてきたお二方。高田先生も佐久間さんもラジオのパーソナリティーもされているので、その点もふまえつつの対談が見所。
「対談」と同じような項目で「応酬」というのもありますが高畑勲×宮崎駿×鈴木敏夫や荒川弘×西尾維新、タモリ×阿川佐和子などのことばの名掛け合いも掲載されており、ことばの名カウンターパンチだなと思うものも多数。
ぐっと箇所を抜粋、回文、恐怖、追悼より
ひとつひとつの項目をがっつりと掘り下げるという形でなく、あくまでことばにはいろいろな側面があり、そこから本質をさぐろうとしているBRUTUSの特集
その中でも私的にすごく胸にきた、ぐっと来た箇所を抜粋
「回文」
無くならない恋なら泣くな
舞漂う雪 虚空にみやび棲む 音韻をむすび闇に浮く 呼吸よ ただいま
福田尚代さんという美術家の方の作品です。回文って、とにかく前後で音があうことを主眼につくられているものが多いですが、福田尚代さんの作品はその世界観が美しい。特に「舞漂う雪〜」などは目に見えない空間にある、静かな余韻のような風景を想像さえてくれる非常に美しい詩に仕上がっていると感じます。
「恐怖」
漢字という檻のなかに、一匹づつ、怪物がいて、文字毒を食らって生き延びているのではないか。
読書好きの人には、ドキッとすることばかも。日々触れている本とそこにある文字列。そこにこのような感覚を抱いたことはありませんが、一度指摘されると、漠然とした不安がつきまといます。
首から上は常と変わらない頭の大きさだが、瓢箪のようで、目鼻がない。耳は両方に少し形があって穴がわずかに見える。頭の上に口があり、蟹の口に似て、いざいざと動く。
生きている甲殻類をまじまじと見つめた時、その口だけは常にせわしなく動き回っていることに気づきます。魚を捕まえては、体の動作に似合わぬ速さで動き続ける口。その動きにいざいざというオノマトペをつけることで、上記の一文のリアリティが頭の中で鮮明に再生されるよう。
「追悼」
「媚びない」「ぶれない」「すぐ怒る」の三拍子そろっている。
ロッケンローラーの内田裕也さんのお葬式で、俳優ミュージシャンの陣内孝則さんが送った言葉。
聖帝サウザーの名言のような、キレのある響き。だけどそれだけで内田裕也さんの生き様とロック魂を表現したような、愛のある追悼に感じます。
これらの特集の他にも、面白い切り口でことばに迫っている今回のBRUTUS(ブルータス)特集「ことば、の答え」。
普段我々の身の回りにあることばに、今よりちょっとだけ奥深さを知れたような、そんな一冊でした。