このサイトで何度もなんども取り上げておりますが、私がもっとも尊敬する作家東海林さだお先生。
日本を代表する漫画家であり、またユーモアエッセイ界においては一人横綱とも称される、面白い文章を生み出す大ベテラン。
この前自分の本棚の東海林さだお先生作品群を見渡していた時のこと。
本の出し入れが頻繁なので、きちんと年代順に並べなおそうと、Wikipediaの東海林さだお先生の項目を見ながら作業していました。
自分の中では、少なくとも文春文庫になっているエッセイシリーズは全部揃えていると思っていたのですが、一冊抜けている!
これはイカん!東海林さだお好きとしてあるまじきことである。
さっそくアマゾンで注文し、つい先ごろ読み絵終えたのが「ショージ君の男の分別学」。
今までの東海林さだお先生エッセイの中でもとりわけおじさん好み、おじさんにおすすめな内容に仕上がっています。下品すぎない適度な下ネタ要素満載で可笑しみにあふれた名エッセイ!
おじさんには下ネタが必要だ!エッセイ「ショージ君の男の分別学」
東海林さだお先生のエッセイの中でも下ネタ、エロ要素多し
東海林さだお先生のエッセイ「ショージ君の男の分別学」。今まで読んだ中でもとりわけて下ネタ、エロ要素が多いように感じます。
もちろん今まででもそういいう下ネタ、エロ要素のあるエッセイは書かれていますが、「ショージ君の男の分別学」ではそれらの比率が多い。
タイトルだけでいうと「ケツについての分別」、「あのあたりに関する表現について」、「芸者遊びについて」、「のぞき部屋について」など。
他のエッセイシリーズだと、一冊につき1、2作品下ネタ系があるかぐらいなので、「ショージ君の男の分別学」はわりと多い方でしょう。
下ネタ、エロと言ってもそこは東海林さだお先生、婉曲かつ曖昧、そのものズバリの表現を避け、ユーモアに溢れた表現でそれらを描き出しています。
私は今30代中盤で、すこしずつおじさんになりつつあり、これぐらいの下ネタとユーモアになんとも可笑しみを感じるようになってきました(参考:寝る前読書の決定版!キングオブ庶民を描く「ショージ君シリーズ」)。
ばかばかしくて面白い「あのあたりに関する表現について」
下ネタを婉曲かつ曖昧に描き出しているものの代表として「あのあたりに関する表現について」などは名エッセイかと。
関東地方などではたった四文字で済むもの
一般的に上記のように言われている「あのあたり」に関して、おじさん向けの雑誌に載っている様々な官能、エロ小説などを参考にどのような言い回しが使われているのかなどについて述べられています。
「女の花園」、「桃色の果肉」、「蜜壺」など女性に関する様々な表現の多彩さや、一方の男性に関する表現のとぼしさへの嘆きなど、面白おかしくエッセイに。
こんなこと、よくよく考えればエッセイに仕立てるようなものでもないのに、そこを不真面目かつ東海林さだお的眼差しでほじくり返しているところに、ユーモアエッセイ界の一人横綱たる所以を感じます。
潜入ルポのような体験記のような「のぞき部屋について」
「ショージ君の男の分別学」で時代性を感じて面白かったのが「のぞき部屋について」というエッセイ。
そういうものがあるということは聞いたことがありますが、今でもやってるのでしょうか?
「のぞき部屋」とは風俗のようなもの。お客さんはまず狭い個室に入れられます。目の前がガラス張りになっており、その向こうに少し広めの部屋が。いくつかの個室からこの部屋の中で繰り広げられるストリップを鑑賞するシステムのよう。ある種プライベートストリップ?
「のぞき部屋」というもののシステムや中でどんなことが行われるのかなど、東海林さだお先生が体を張ってルポ(体験記?)してくれています。
何か生々しいことになるんじゃないかとのご心配は無用。そこは東海林先生、溢れ出すユーモアで下ネタを笑いに昇華させてくれています。
人はエロいものに接する時に「けしからん」という態度をとる
この「のぞき部屋」で、個室に入るまで店内のベンチか何かでまたされるそう。
こういうエロいお店でエロいものと接する直前、おじさんたちはどういう態度や表情であればいいのか。
東海林さだお先生はエッセイにおいて、ずばり「けしからん」という態度になると書かれています。
ベンチに腰かけると、三人共急に、「けしからん」という顔になった。「けしからん」という顔になってタバコをふかす。
それから脇の本棚にズラリと並んでいるビニ本を、「けしからん」と眺め、一番けしからんそうなのを一冊選んで「けしからん」と開く。
どの頁もけしからんポーズばかりが並んでいて、本当にけしからん。
中年男、特に課長さんには「けしからん」がよく似合うのである。
東海林先生含む、三人のおじさんの「けしからん」態度。エロいものへの後ろめたさに対するせめてもの見栄でしょうか。情けなくも可愛げのあるおじさんたちの抵抗に、面白さを感じます。
【余談】色っぽい小噺「桂春蝶の女の口説き方」
下ネタずばりよりも、どちらかといえば微妙に婉曲かつ曖昧な方が面白さとしては上であるような気がします。人にもよると思いますが、あんまり生々しいのは笑えない(特に文科系、草食系の人間にとっては)。
そんな中で、この前耳にした小噺が色っぽさの塩梅がいい感じだったのでご紹介。上方落語家の三代目桂春蝶さんの小噺。
三代目の父親である二代目桂春蝶さんと桂ざこばさん、上岡龍太郎さんが女性の口説き文句を考えていたそうな。大阪では長いセリフは女性に嫌われるので、なるべく短いフレーズの口説き文句は何かと討論。
口火を切ったのはざこばさん。提案した口説き文句が「ええか?」。
上岡龍太郎さんが三文字は長すぎると反論。二文字の口説き文句で「どや?」。
二代目桂春蝶さんが二文字でも長いと反論。究極に短い口説き文句が「な?」。
関西弁がわからないとこのニュアンスがわからないかもしれませんが、私的にかなりハマった小噺。下ネタとまでも言えませんが、これぐらいのエロさ、色っぽさかげんが一番面白いです(参考:天才筒井康隆は世界一の美女をどう表現する?「エロチック街道」)。
「ショージ君の男の分別学」はおじさん好みのエッセイ
これまで述べたように、「ショージ君の男の分別学」にはちょうどいい塩梅の下ネタ、エロエッセイが多く載っています。
どれも生々しさはなく、ユーモアによってかなり面白く、笑える作品に仕上がっています。
こういう系の作品って、それなりに世間の色々なことを経験してきたおじさんにこそ好まれるエッセイ。ダンディーなおじさまではないけれど、東海林さだお先生の作品で描かれている、愛すべきおとっつぁんたちにおすすめしたい名作!
おじさんだからこそ、東海林さだお先生のいわんとするニュアンスがダイレクトに伝わってくるし、「わかるわかる!」とその面白さを十二分に享受できるような気がします。
東海林さだお先生の作品自体が、どちらかといえばおじさんむけの雑誌などに連載されているので、エッセイのターゲットとしてはおじさんはドストライクゾーンなのです。
下ネタ以外のエッセイももちろん面白いですよ。おじさんだけでなく、老若男女が気楽に笑って、リラックスできる名エッセイでした。