以前にも書きましたが、私は寝る前に落語を聴くことを日課としています。
夜寝る前の流れとしては布団を敷く、布団の中で読書、落語を聞きながら寝る(寝付けなかったらkindleで読書)といった感じ。
私、寝る前の読書では特にグルメエッセイやグルメ漫画を読むのが好きなのですが、こと落語においても食べ物が出てくる噺を好みます。
食べ物が出てくる落語というのは基本的に呑気なものが主。
何か食べようっていうのに、深刻な刃傷沙汰や事件なんてものはなかなか起きません。
基本ちょとと間抜けであったり、どじだったりとそういう落語が多いように感じます。
そんな食べ物が出てくる落語の中で、特におすすめ、寝る前に聴くのにぴったりなものをご紹介したいと思います。
寝る前に聴きたい食べ物の出てくる落語
青菜
暑い暑い真夏のこと。とあるお金持ちのお家で仕事をしている植木屋さんにご隠居さんから声がかかります。
一緒にお酒を飲まないかとのこと。植木屋さんが普段食べたことのない鯉の洗いや柳蔭(直し)というお酒をご馳走に。
ご隠居さんがさらに菜のおひたしを奥さんに頼んでくれるのですが、奇妙なやりとりの末、菜はないからごめんなさいとのこと。
その奇妙なやりとりとは隠し言葉のことで、ご隠居さんやお客さんに気まずい思いをさせないためのものだと言います。
その隠しことばを使ったやりとりに感動した植木屋さん。さっそく家に帰って、友達相手にそれをやろうとするのですが。。。
暑い炎天下で体が火照っている中でいただく冷たい柳蔭に鯉の洗い。
冷房などない時代の噺。そんなか、ちょっとした冷たいものが何よりの馳走だったことでしょう。
その食べる仕草が本当に美味しそうで、聴いていると情景がまざまざと浮かびます。
家に帰って、友達に同じことを試そうとするのですが鯉などありません。
仕方なしに鰯の塩焼きを出すのですが、これもまた美味しそうです。
二番煎じ
ある寒い冬の夜。町内の旦那やご隠居連中が夜回り、火の用心の役を持たされました。
1番組と2番組にわかれ町内の火の用心。ガクガク震えながら番小屋に帰ってきた1番組は寒さしのぎに猪鍋を食べることに。
私はこの「二番煎じ」という落語の見所は猪鍋を食べるシーンにあると思います。
暖房や防寒に乏しい時代。極寒の火の用心から帰ってきて心底冷え切っている中で食べる猪鍋はどれだけ美味しいことでしょう。
番小屋なのでろくに調理器具や食器もない中、なんとか工夫して回し食べしている姿が面白いです。
あえて「牡丹鍋」とは言わず猪鍋。具材も猪肉にネギ、味噌などシンプル。だからこそ一つ一つの食材を味わうシーンがあり、そこが良い。
食べ物の出てくる落語の中でも一番美味しそうに感じる噺です。
目黒のさんま
有名な食べ物の落語で、今でも東京の目黒では「目黒のさんま祭り」というのが行われています。
ものを知らないお殿様。馬で野駆けの途中、お腹が空きますがあいにくお供のものが弁当を持ってきておりません。
その時近隣の農家から美味しそうな匂いが。普段鯛以外に食べたことのないお殿様。匂いの元を訪ねるとさんまという魚との答え。
さっそく農家から持ってこさせ食べるのですが、その美味しいこと。お城に帰ってからももう一度食べたいと願うのですが、なかなか叶いません。ある日、親戚の招きでようやくさんまにありつける機会を得ますが。。。
ものを知らないお殿様のとんちんかな所も笑える噺ですが、初めて食べるさんまの味に感動するところも見所です。
お殿様といえば、食事は毒味の手順が入りますので冷めたものばかり。魚といえば来る日も来る日も鯛。
そんな中、焼きたての、まだ油がジュージューいっている旬のさんまを食べたのですからたまったもんではありません。
噺家さんによって、このさんまの描写と食べた瞬間のお殿様の感動をいかに表現するかが「目黒のさんま」の聴きどころ。
時そば
こちらも食べ物の出てくる落語では有名な噺。
ある夜、屋台の蕎麦屋でうまい方法を使って一文ごまかした男がおりました。
それを見ていたまぬけな男。さっそく真似しようと翌日別の屋台へ。
うまくいった男の真似をしようとするのですがことごとく失敗してしまうという落語。
時そばの好きなところは最初の男が食べるそばは美味しく、後のまぬけな男が食べるそばはものすごく不味いという点。
最初の男は美味いそばを逐一褒めながら食べていきます。それを真似てまぬけな男も褒めるのですが、不味いそばにはことごとく当てはまりません。
「二番煎じ」でもそうでしたが、寒そうな夜にあったかいそばを食べるシーンというのは本当に美味しそう。最初にそのシーンがあるだけに不味いそばに四苦八苦するまぬけな男が本当に可笑しいです。
麺類の出てくる落語は他にも「うどん屋」、「そば清」、「蕎麦の殿様」などがありますが、美味しそうという点においては「時そば」が一番好きです。
味噌蔵
あるところにとてもケチな味噌屋の旦那がおりました。お金がかかるからと嫁さんまでもらうのを渋っていた旦那。
そんなケチな旦那も親戚の勧めもあり、嫁さんをもらうことに。なんやかんやでお嫁さんのお腹に赤ちゃんが。
出産のため実家に戻っている嫁さんの家から赤ちゃんが生まれたとの知らせ。旦那は小僧を一人連れて出かけますが、家の者には火事に十分気をつけるよう言います。
特に味噌蔵には火が入っては大変。いざという時には味噌で目塗り(蔵の隙間などを塞ぐ)をするようきつく言いつけます。
旦那が出かけると番頭さんはじめ店の連中大はしゃぎ。普段ろくなおかずも食べさせてもらっていないので、ここぞとばかりにどんちゃん騒ぎを始めますが。。。
これは噺家さんによってものを食べるシーンを省く時もありますが、いろいろな食べ物がでてきます。
ケチな旦那のために、普段味噌汁に具さへ入っていません。そんな粗食に耐えているからこそ、番頭さんになんでも頼めと言われ、普段から食べたかったものをここぞとばかりに言っていきます。
この落語の、ようやく食べたいものが食べられるというお店の連中の喜びようが好き。選ぶ食べ物も意外となんでも無いようなものもありますが、普段それだけ質素な食事に耐えていたのでしょう。
この落語でサゲ(オチ)に関係する食べ物が味噌田楽。残念ながら「味噌蔵」では味噌田楽を食べるところまではいきませんが、「田楽喰い(ん廻し)」という落語では食べるシーンまであります。
他にも色々食べ物の落語
今回紹介したのは食べるシーン、食べ物が美味しそうな落語を中心に紹介させていただきました。
上記以外にも食べ物やお酒の出てくる落語は沢山あります(「饅頭こわい」、「鰻の幇間」、「鍋草履」、「試し酒」、「ちりとてちん」など)。
落語に興味を持った方にはぜひ寄席や落語会に足を運んでいただき、生の芸を観てもらいたいです。耳で聴くのと共に、食べる所作など一緒に観た方が断然面白いですし、その世界観も伝わってきます。
寄席や落語会で、老若男女一つの方向向いて気楽に笑うってのも楽しいもんですよ!
食べるということと落語の雰囲気は非常に合っているような気がします。聴いていると気分までほがらかに。
みなさまも一度、食べ物の出てくる落語を聞きながら噺の料理を夢見て寝つくのはいかがでしょうか。
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