私は普段、寝る直前まで読書をしています。
本の世界に浸り、リラックスしてうとうととしてきてから眠るのですが、いざ寝るという時に一つ楽しみごとがあります。
それは落語を聴きながら眠るというもの。
読書と並んで、私が毎晩習慣としている落語睡眠の良さを紹介していきます。
忙しい現代人にこそ落語がしみる!
古典芸能ではない、今も通じる大衆芸能としての落語の魅力
みなさん、落語って聴いたことや観たことありますか?
私の周りではないって人が圧倒的に多いですし、落語のイメージといえば笑点の大喜利であり、それが落語だと思っている人も多いです。
もしかしたら、学生時代古典芸能鑑賞の時間とかで観たっていう人もいるのではないでしょうか。
そもそも私は落語は古典芸能ではないと思っています。古典ではなく今も通じる立派な大衆芸能。現代人の感性にもビビビっと響いてくる日本の話芸です。
聴いたことのない人には「古臭い」とか「おじいさんが好きそう」だとかいうイメージをもたれている方もいるかもしれませんが、決してそんなことはありません。
今でも毎年新しい落語家(噺家ではなく落語家で統一します)さんが大勢生まれていますし、若い人のファンも大勢います。そして老若男女が爆笑できたり感動できたりできるのが落語なのです。
そもそも落語は何百年かの歴史があり、その中で現代まで残って、磨き抜かれてきた噺(はなし)はちょっとやそっとの時代の変化に負けない面白さを持っています。
たとえ描かれる舞台が江戸や明治、大正であろうとも現代人にも笑える笑いのエッセンスがつまっています。
東京や大阪にいるならまずは寄席へ
今も若いファンを増やし続けている落語ですが、なかなか観る機会がないのには理由があります。
それはテレビでの放送が圧倒的に少ないということ。漫才とかならば年に何回か特番などもあり、テレビのバラエティーも漫才師の方々が多数を占めていますがその比率からいうと落語家さんは少ないです。
私が思うに、落語は現代のテレビの尺に合わないのが大きな理由でしょう。
数年前にやっていた爆笑レッドカーペットやエンタの神様のように、ネタ見せ番組でも3〜5分以内にネタを納めなければなりません。
しかし落語は短くても10〜20分ぐらいかかるので、短い時間で笑いを取らなければならないテレビの尺には残念ながら合いません。
そんな中でも、ありがたいことに近年ではYouTubeやストリーミング配信などで落語を観られる環境が整ってきています。
まずはそこから落語の世界に入ってみてください。
なおかつ、もしあなたが東京や大阪、名古屋にいるのならば、是非寄席(よせ)に行ってみてください。
東京ならば上野鈴本演芸場、新宿末廣亭、浅草演芸ホール、池袋演芸場など。大阪ならば天満天神繁昌亭、新世界にある動楽亭などがあります。名古屋には大須演芸場があります。
どんな芸能でもそうですが、テレビやYouTubeなどで観るよりも寄席でライブで見た方が圧倒的に面白いです。
いろんな年代の人が客席にいて、気楽にあはははと笑える空間っていうのはなんともいえず気持ちがいいです。
都市部で落語に興味のある人は、まず寄席デビューを先にするのもオススメです。
落語を聴きながら眠る至福
目を閉じながらでも広がるイマジネーション
さて、私が習慣にしている寝る前に落語を聴くということ。この魅力をご説明いたします。
当たり前のことですが、寝るということは目を閉じなければなりません。
目を閉じてすんなり眠りについていければいいですが、目を閉じた後のほうが色々なもやもやが頭に浮かぶという人も多いのではないでしょうか。
そんな人にこそ落語を聴きながら眠るということを試してほしいです。
落語は様々なジャンルのネタがありますが、基本的には気楽な噺が多いです。
眠る時、目を閉じていても耳を閉じているわけではありません。耳からの情報は眠りにつく途中でも入れることは可能です。
寝る時に、枕元で落語の気楽な噺を聞いていると頭の中でその気楽な世界が広がっていきます。
ぼーっと落語を聴きながら気楽な世界をイメージしていると、自分まで気楽な心持ちになってすぅーっと眠りにつきやすくなります。
今まで音楽やラジオ聴きながら眠っていたという人には合うと思います(残念ながら音に敏感な方にはあまり合わないかもしれません)。
音楽やラジオよりも、ストーリーがある分、小さい頃の絵本の読み聞かせの大人版みたいな感じでより眠りにつきやすいのではないでしょうか。
ちなみに落語は江戸時代をはじめとした昔の生活を題材にした噺が主となっています。落語を聴きながら頭の中でイメージするときに、その当時の生活を知っておいたほうがわかりやすいと思います(現代にない習慣や仕事、道具などがいろいろ出てくるので)。
江戸落語を聴くにあたって予備知識を仕入れるのに、江戸学の第一人者、漫画家杉浦日向子さんの「一日江戸人」が読みやすくまとめられているので、一読をおすすめします。
寝る前におすすめの落語家&噺
眠りやすい落語家や噺がある
ではどんな落語でも眠りやすいかというとそうでもありません。
先ほども言いましたように、話には様々なジャンルがあり、人情噺や怪談噺など笑いの要素の無いものもあります。
また、落語には古典落語に新作落語(現代の世相をあつかったネタ)、地方性としては江戸落語と上方(大阪)落語に分かれていたりします。
もちろん普通に観たり聴いたりするのならば、どのようなジャンルでも楽しめるのですが、寝る前に聞く噺となると少し絞ってみたいと思います。
私としてはなるべく気楽な内容の噺が眠る前には向いていると考えます。気楽な噺は頭を使わず、リラックスして気楽な笑いの世界に浸れるからです。
気楽な噺に的をしぼりつつ、私的におすすめの噺をセレクトしてみました。
また、落語家さんに関しても、私的に寝る前にオススメしたい方をご紹介させていただきます。
寝る前落語におすすめの落語家さん5選
これから紹介する5名の落語家さんは皆故人ですが、その素晴らしい噺はCDやDVD、またYouTubeなどでも楽しむことができます。
私自身が寝る前によく聴く落語家さんをご紹介させていただきます。
1.桂米朝(3代目)
人間国宝にもなった上方落語界を代表する落語家さんです。なんとも上品な口調としっかりした芸のうまさがたまりません。
うろ覚えで恐縮ですが以前何かの本で、作家の司馬遼太郎さんが寝る前に米朝師匠の噺を聴いているというのを読みました。米朝師匠の噺を聴いているとすぐに寝られるという内容だったと思います。
声質や話のリズムが心地よく、私がもっとも眠る前に聴いている落語家さんです。
2.古今亭志ん生(5代目)
昭和江戸落語の大名人。中尾彬さんの奥様、池波志乃さんのおじいさんです。
よく天衣無縫と称されますがものすごく自由な感じのする噺が特長です。
かなり爆笑できる噺が多いのですが、自由な芸風がものすごく気楽な感じで、寝る前によく聴いています。
3.三遊亭金馬(3代目)
こちらも昭和江戸落語の大名人です。戦後ラジオで日本中に落語の魅力を広めた人でもあります。
江戸落語はなかなか江戸弁に慣れにくい場合もあるのですが、金馬師匠の噺は聴きやすいし、わかりやすいです。
よどみなくトントンと進む話芸が魅力です。
4.柳家小さん(5代目)
落語界で初めて人間国宝になった方です。立川談志さんの師匠でもあります。
ジブリ映画の「平成狸合戦ぽんぽこ」の和尚さん狸の声も担当されていました。
滑稽話が得意で、じんわりとした笑いがなんとも気楽な心持ちにさせてくれます。
5.林家正蔵/彦六(8代目)
こちらも名人と言われた先代の林家正蔵師匠です(最後は彦六の名前でした)。笑点でおなじみ林家木久扇さんの師匠でもあります。
ものすごく独特の口調で、今でも木久扇さんをはじめ、正蔵師匠のモノマネをする人が大勢います。ゆっくり、ちょっと震えた声は一度聞いたら忘れられません。
怪談噺が得意ですが笑いの多い噺も残っています。抑揚の少ない口調が寝る前にぴったり合います。
寝る前落語におすすめの噺5選
落語には色々な噺がありますが、その中でも寝る前にぴったりの気楽な噺を紹介します。
大ネタと言われる技量の必要な深い噺よりも、前座噺といわれるような軽めのネタのほうがより気楽であると感じいくつか選んでいます。
また、多くの人が手がける噺を選んでいるので、聴き比べもおすすめです。
1.子ほめ
前座噺の代表格のような噺。日本全国どこかの寄席や会場で、かならず一回は誰かがやっているであろうポピュラーな噺です。
筋も気楽でシンプルですし、何度聴いても飽きません。
特に上手な落語家さんのものほど、気持ち良く聴けます。
2.道灌
こちらも前座噺の代表格。ものすごくシンプルですが、じっと聴いているとその気楽な世界観に癒されます。
基本八っつあんとご隠居さんとのやりとりやそのあとの失敗が聴きどころ。初めての人にはわからない言葉なども多いかもしれませんが、落語の世界に興味を持つきっかけになると思います。
こちらも上手な落語家さんのものをよりおすすめします。
3.千早ふる
有名な百人一首の歌のわけを知ったかぶりのご隠居さんに聞きにいく噺。
「ちはやふる 神代もきかず 竜田川 からくれないに 水くくるとは」の歌の意味がどのように無理くり解説されるかが見所。
きちんとした歌の意味を知って聴くと、また面白さも格別です。
4.鰻の幇間(たいこ)
幇間(たいこ)とは太鼓持ち(たいこもち)のことで、今では見られなくなった男芸者の噺です。たいこもちは今では言葉ぐらいしか残っていませんね。
金持ち風の旦那をおだてて鰻をご馳走になろうとするのですが失敗してしまう噺。
噺の展開がなんともこ気味よく、失敗を悟ったあとの太鼓持ちのやりとりも見所です。
5.長屋の花見
貧乏な長屋の一同が花見に行くという噺。
金がないのでご馳走やお酒は用意できないが、いろんな代用品をとりそろえのんきに花見へ。
金はないけどあっけらかんとした感じがなんとも癒される噺です。
寝る前落語をきっかけに人生に落語を
とりあえず寝る前落語のおすすめを書いてきました、なんといっても落語そのものが素晴らしいです。
寝る前だけでなく、色々な機会で落語を親しむ習慣を取り入れてほしいです。
落語には笑いだけでなく感動の要素や現代にも通じる人生のあらゆる側面、シチュエーションが盛り込まれています。
昔も今も人ってあんまり変わらないし、なんとかやってるんだなって思うだけでも、人生少しだけ気楽になれるんじゃないでしょうか。
そして、できれば生で落語に触れてほしいです。私は地方で暮らしていますが、それでも年に何回か地域寄席で落語に触れられますし、東京や大阪に出た時は寄席に行きます。
寄席でのライブで観る落語の面白さは格別ですし、出演者さんたちのリレーでその日限りの面白い空間が作り上げられていくところが魅力です。
(落語家さんの芸への工夫についての記事はこちら>>人気落語家さんたちの十八番と工夫がわかる本「十八番の噺」)
落語だけでなく漫才、奇術、お神楽などもあり、時に笑い、時にドキドキワクワクしたりと、だれることなく1日楽しめるエンターテイメント空間です。
各種メディアで気楽に落語や娯楽に触れられる時代だからこそ、生の寄席の雰囲気を、体全体で楽しんでみませんか。
いろいろ窮屈な時代ではありますが、のびのび余裕のある落語の世界に触れて、すこし息抜きしていただければ幸いです。
落語入門本おすすめ3選
1:「今日も落語に行ってきます! ボクの好きな噺と落語家さんたち 」
イラスト付きでわかりやすく、著者お勧めの落語家さん一覧もあります。イラストも可愛らしく、噺の世界観がビジュアルで理解できます。
2:「落語百選」
春夏秋冬と4冊あります。落語は季節季節の噺があり、春の本では春がテーマの落語をセレクトして文字で楽しめます。有名どころの噺が厳選されているので、こちらで文章で読んでから実際に聞いてみるのもお勧めです。
文庫なので寝る前にぱらぱらと読み、そのあと落語を聞くという流れも面白いです。
3:「春風亭一之輔のおもしろ落語入門」
私の今一番好きな落語家春風亭一之輔師匠が書いた落語入門書。小中学生向けなので、ご家族で楽しめる内容です。落語にはよくも悪くも世の中の様々なエッセンスがつまっているので、子供のうちから親しんでおくといいのではと思っています。
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