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「デザインのデザイン」原研哉の名言まとめ

「デザインのデザイン」原研哉の名言デザイン・アート

デザイナーの私が、仕事にまつわる本をご紹介。

日本を代表するグラフィックデザイナーの中に、原研哉さんという方がおられます。

ポスターなどでは極端まで情報を削り取り、シンプルな中に凛とした美しさを持つ、日本的なデザインが特徴。

そんな原研哉さんの名著に「デザインのデザイン」という本があります。

原さんのデザイン哲学が集約された本。そこにはデザインに対する数々の名言が収録されています。

この本を買ったのは美大生の時。十数年ぶりに読み返しましたが、改めて色々な気づきがありました。

「デザインのデザイン」の中で、特に私が感銘を受けた言葉や名言を、備忘録的な意味でまとめてみましたのでどうぞ。

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「デザインのデザイン」で出てくる名言

病院のサインについて

サインは本来、誘導の機能を持った単なる「指示」であるが、それが空間に存在する以上はなんらかの物体であることを逃れられない。~p77~

山口県にある産婦人科、小児科専門の梅田病院のサイン計画を行った時のもの。一般的にサイン(部屋の名前や誘導指示、トイレマークなど)は、プラスチックや金属のボードに記載されるが、原研哉さんは布にプリントして柔らかげなものに仕上げました。

産婦人科、小児科という場所に置いて、布の質感の持つ柔らかさは、プラスチックなどの質感よりも適していると思います。その柔らかみが、患者さんの心までもくつろがせるでしょう。

空間にサインが存在する以上、何かの物体に記さなければならない。しかし、その物体にまでデザインの意識を凝らすことで、その空間自体がより良いものへとブラッシュアップされるのです。

欲望のエデュケーションについて

商品の母胎となる市場の欲望の質がグローバルな市場での商品の優位性を左右する。それは一般的なマーケティングとは異なる深度に焦点を合わせないと見えてこない問題である。そういう問題を考えていくのが「欲望のエデュケーション」である。~p136~

高級セダン市場で世界的に見てもBMWやアウディ、ベンツの人気が高いことを例に、欧州などでの顧客の要望、欲求(欲望)の質の高さがその品質を作り出しているということに言及。
言い換えれば、市場の欲求の質の高さが、生み出されるデザインの質の高さにも影響するということでしょう。

「一般的なマーケティングとは異なる深度に焦点」とあるが、なかなか数値化されづらい、もっと文化的かつ欲求の根源的なものへの視点をいうのでしょうか。

そういうものへの理解を「欲求のエデュケーション」という言葉で表現されています。

「陰翳礼讃」はデザインの花伝書である

これは日本的な感性に対する優れた洞察でもあるが、デザイナーとしての現在の自分には、むしろ厳しい西洋化を経て到達し得た日本デザインの花伝書に見えたのである。それは、もしも日本が近代化を「西洋化」という方向で行うのではなく、日本古来の伝統文化に近代科学を受胎させ進化させることができたならば、おそらくは明治維新を経た日本とは全く異なる、そして西洋に対して向こうを張れるユニークなデザイン文化を生み出せていたのではないかという発想である。(中略)これをデザインの書として読むならば僕らは日本の伝統文化のその先に、これまで経験したことのない未知なる現代性を開花させることができるはずである~p160~。

私は、原研哉さんのこの一文を読んで「陰翳礼讃」を手に取りました。

現代の明々とした生活空間の中で忘れてしまった、日本人本来が持っていた美意識について記されている名著。原研哉さんは「花伝書(能に関する極意書)」に例えられていますが、まさにそう。

「陰翳礼讃」をデザイン書という意識で読み解くと、とても学びの多い本。現代のデザイナーが日本的デザインを考える指針となるべき本となるでしょう(参考:谷崎潤一郎「陰翳礼讃」暗がりによって培われた日本人の美意識とは)。

情報の質について

この「情報の質」を高めることでコミュニケーションに効率が生まれ感動が発生する。つまり「情報の質」をコントロールすることで、そこに「力」が生まれるのではないか。~p209~

私も、仕事デザイン(主にグラフィックデザイン)を行う中で、ここでいう感動について意識しています。

たとえば文字だけで構成されたポスターがあるとします。使われているフォント、文字間隔や行間、余白への意識などをこだわることによって、たとえ記載されている情報(内容)が同じであっても、そこに感動や効果の差が生まれてきます。

プロであるからには、常にそこを意識し、少しでも情報の質を高めることで、そのデザインがより力を持った、効果的なものであるよう努力する必要があります。

情報の美について

デザイナーが情報に関与するポイントは「質」である。そういう観点から会議のテーマを「情報の美」とした。(中略)
そこで僕たちは「情報の美」という頂上へのアクセス・ルートとして次の三つの道筋を設定することにした。
それは「分かりやすさ」、「独創性」、「笑い」という三つのルートである。〜p210〜

この「情報の美」という概念の中で、特に「笑い」は興味深い。情報をコミュニケーションとして見た時、笑いはとても有効な手段(といっても、そうやすやすと使える品物ではありませんが)。ここでの「笑い」は「極めて精度の高い理解が成立している状態」という表現で表されています。

原研哉さんはこれら「分かりやすさ」、「独創性」、「笑い」の三つのルートをあくまでも架空のアクセス・ルートであり、「情報の美」への到達方法はいくらでも考えられると。

「情報の美」はあくまで、新しい思想を発生させる触媒であり、三つのルートはその頂に辿り着くための登山ルートのようなものだとも解説されています。

「デザインのデザイン」について

「デザインのデザイン」は原研哉さんの仕事とともに、様々な思想的な部分がまとめられた本です。その中でも、デザインの仕事を行う上で身につけておきたい言葉や名言を備忘録的にまとめてみました。

すぐに仕事に役立つという類の本ではありませんが、そこで語られている数々の名言は、我々デザイナーにとって新鮮な視野の獲得と居住まいを正すきっかけとなるでしょう。

デザイナーでない方にとってはかなり難しい内容かもしれませんが、それでも日本の美や物事の考え方などで大いに発見があるはずです

2003年に発売された本ながら、今に至っても色褪せない気づきをあたえてくれる名著でした。