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「月の影 影の海」小野不由美が作り出す「十二国記」の緻密な世界観

読書録

最近読み始めた、小野不由美さんの「十二国記」シリーズ。

序章たる「魔性の子」を読み終えて、二作目となる「月の影 影の海」も読了しました。

「魔性の子」では、まだ本編に入っていないといった感じでしたが、この「月の影 影の海」ではいよいよファンタジーな世界へと突入していきます。

※ネタバレ含みます

【前巻についての記事】:「魔性の子」はホラー?小野不由美の「十二国記」につながる序章

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「月の影 影の海」で十二国記の世界観を知る

「十二国記」のはじまりたる「月の影 影の海」

長年にわたり、多くの読者をひきつける「十二国記」シリーズ。ファンタジーで一見子供向きかと思えども、中身は重厚。幅広い年齢層にファンを持つ、小野不由美さんの人気シリーズです。

今回紹介する「月の影 影の海」では、いよいよそのストーリーの本編へと足を踏み入れました。前作の「魔性の子」は現代世界を舞台としていたので、シリーズの始まりというよりは前日譚的な扱いかと思います。

主人公は女子高生の中島陽子。突如現れたケイキと呼ばれる謎の人物により、異世界へと連れ去られます。

言葉こそ通じるけれど、自分が今まで暮らしていた世界とは全く違う世界。そこには慣れ親しんだ近代文明はないし、魔物さえいる。

頼るべきはずだったケイキも消えてしまい、陽子はたった一人、その世界で生きていかなくてはならなくなりました。

数々の裏切りや悲惨な状況の中で、陽子は自分がなぜこの世界に来たのかを知ることとなります。

もしも異世界に飛ばされたなら

数限りなくある「異世界召喚系」ファンタジー。私の小さい頃でいうなら「魔神英雄伝ワタル」など、主人公が全く違う秩序で成り立つ異世界へ飛ばされる話はファンタジーの鉄板。

「十二国記」のはじまりたる「月の影 影の海」も、召喚とはちょっと違いますが、異世界に連れ去られるところからスタートします。

「異世界召喚系」ファンタジーにおいて、主人公がその世界へ飛ばされた時にどのような状況にあるか。

「月の影 影の海」の陽子の場合は、魔物を倒すだけの技術と武器だけは備わっていました(そういうのが全くないファンタジーもあるので、まだマシな方?)。

しかし、仲間無く、ここがどこかもわからず、なぜ飛ばされたかの目的もわからない。とりあえず生きていかなくてはいけないのですが、陽子に次々試練が訪れます。

主人公、陽子が悲惨な目に合う上巻。楽俊に助けられる下巻

異世界で一人ぼっちの陽子。あてどもないが、生きていかなくてはいけない。しかし、異世界は彼女に対して容赦をしません。

そもそも現代日本とは違った秩序で成り立っている「十二国記」の世界。倫理なども全く違う。陽子を助けるようなふりをして、女郎屋に売り飛ばそうとする人も。

そんな中で、とことん陽子の心はすさんでいきます。また、人に騙されるだけでなく、魔物がひっきりなしに彼女を襲ってくる。人にも魔物にも気を抜けない日々。次第に心身ともにボロボロな状態に。

「月の影 影の海」は私が今までに読んだ「異世界召喚系」の中でも屈指の悲惨な出だしです。他の作品なんかだと、異世界に行った段階で何かしらの手助けしてくれる仲間がいる場合が多いですが、陽子の場合はそれがありません。

「月の影 影の海」は上下巻に分かれていますが、上巻ではこれでもかというぐらい陽子は悲惨な目にあいますし、ボロ雑巾のようにズタボロになります。そんな中で彼女が悟ったことは「他人を信用するなかれ」。

我々は普段、日本に生きている限り、なんとなくでも他人の倫理感やどれくらい信用できるかなどは、通念として把握できます。しかし、異世界だと仕組みが違うのでそれが通用しない。

もし自分が、異世界、もしくは中世ヨーロッパなどに飛ばされた場合、果たしてどこまで人を頼っていいものか。しょっぱなに出会った人に騙されれば、その世界ではもう二度と誰も信用できない気がします。

陽子の場合も、しょっぱなから悲惨な目にあいすぎたので、異世界での行動規範が「他人を信用しない」にシフトしていきます。

ねずみの半獣人、楽俊との出会い

悲惨続きの上巻ですが、下巻に入るとねずみの半獣人、楽俊との出会いで陽子のこころはようやくほぐれていきます。

正直、上巻は息つく間もないぐらい悲惨なので、読んでいる方も結構緊張を強いられます。しかし楽俊の登場でようやくホッとできる感じ。

この楽俊がねずみというところもよかったです。人型よりも、別の生き物の方がキャラクターとしてほっとしやすい。おそらく、こいつに騙されることはないだろうと。陽子も楽俊がねずみの半獣人であるからこそ、心を開いたところもあります。

楽俊との出会いの後も、いろいろとハプニングは起きますが、後半ようやく陽子は他人を信じることができるようになります。そして自分がこの世界に来た理由を知り物語は大きく展開していくことに。

十二国記の世界観の緻密さ

「月の影 影の海」の面白いなと思った点に、この「十二国記」の世界に飛ばされたのは陽子だけでなく、大昔から一定の確率でそういう人がいるということ。

そういう人々は海客、山客と言われ、一定数その世界に存在しています。

ごくわずかではあるけれども、我々の世界とリンクしている異世界。我々の世界の住人が「十二国記」の世界に行くことで、その国の技術や文化を発展させることさせあるそう。また、そういう異世界から来た海客を歓迎する国、しない国があるところなども、陽子が旅をする理由の一つとなって面白いです。

また、「十二国記」の国々ではそれぞれに王がいて、それを補佐する麒麟が存在しているという設定もいい。本編に詳しく書かれていますが麒麟が王を選ぶというシステムなどは、ファンタジーながらかなり理にかなっているようにも感じました。

ファンタジーというとストーリーの面白さにばかり目が行きがちですが、「月の影 影の海」を読む限りこういった世界観や秩序の作り込みの緻密さも見所だと思います。

「月の影 影の海」の後半にしたがい、事態は急展開。陽子がなぜこの世界に来たのか、なぜ魔物に襲われるのか、そして何者であるのかがわかり、怒涛のラストへと向かいます。

ラストらへんは急展開すぎる感もありましたが、それまでに語られる「十二国記」の世界観や成り立ち部分がしっかりしているので、次巻以降のストーリーもどうなっているのか大変興味深いところ。

ファンタジーといえど、緻密な世界観の作り込み、そして骨太の設定。そこいらへんも楽しみつつ「十二国記」シリーズをぼちぼち読み進めていくことにします。

【次巻についての記事】:「風の海 迷宮の岸」十二国記内での麒麟と王の関係性を深く知る

【前巻についての記事】:「魔性の子」はホラー?小野不由美の「十二国記」につながる序章

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