面白かった本のご紹介をば。
私はツイッターで読書好きの人を多くフォローしているのですが、最近ちょっと話題になった本が。
それは森見登美彦さんの新作「熱帯」。ちらっとあらすじをみただけでも惹かれる感じ。
私も森見登美彦さんの作品が好きなので即購入。
かなり分厚めの本でしたが、今までに無い不思議な世界観!「えっ?これってどうなるの?」とぐいぐい引き込まれ、一気に読み終えてしまいました。
多くの人を惹きつける、森見登美彦作品の謎多き新作「熱帯」の感想を記しておきます。
誰も最後まで読んだことのない謎の小説「熱帯」のあらすじ
ツイッター界隈の読書好きには森見登美彦好きの人が多い
私は読書好き、本好きの人のツイッターをフォローしていますが、プロフィール欄に「森見登美彦好き」という人をよく見かけます。
私もご多分にもれず、森見登美彦先生の作品が大好き。おそらく多くの人と同じように「四畳半神話体系」や「夜は短し歩けよ乙女」から入った感じです。
森見登美彦先生の作品の魅力は、なんといってもちょいとレトロな言い回しと不思議な世界観。
腐れ大学生とされる、自分の頭の中で小難しいことにがんじがらめになって行動に移せない、愛すべき若者たちが活躍する物語にひかれるのです。森見作品に同じような感想を持たれる方も多いのではないでしょうか。
「夜は短し歩けよ乙女」のようなくすっと笑える不思議系な話があるかと思えば「きつねのはなし」や「夜行」のような怪談がかった不思議な話も得意。
どちらとも現実の中に現れる、ほんの少しだけ軸のずれた次元みたいな面白さがあると思います。
摩訶不思議。森見登美彦の新作「熱帯」のあらすじ
さて、そんな森見登美彦先生の新作「熱帯」のあらすじ。
小説内では森見登美彦先生ご本人が登場されています。先生どうやらスランプ気味で、新しい作品ができずに困っているご様子。
アイディア探しといおうか、現実逃避といおうか、とにかく色々な本を読むことに。その中で「千一夜物語」に興味を惹かれます。
後日、担当編集者と話し合いをしている時に「千一夜物語」の話題になるのですが、そこで森見先生はとあることを思い出します。
それは「熱帯」という、少し不思議な本を読んだ思い出。
学生時代、たまたま購入した小説「熱帯」。妙に面白い小説で、少しずつ少しずつ読み進めていたのですが、ある日突然枕元に置いていたはずの「熱帯」が紛失してしまいます。
その後色々な図書館や本屋をさがしても「熱帯」は見つからず、結局その結末を知らないまま、今に至るのでした。
それからしばらくして、森見先生は「沈黙読書会」なるものに参加します。そこで偶然にも「熱帯」を手にした女性に出会います。
森見先生はその女性に「熱帯」を読ませて欲しいと願いますが断られます。女性が読んだあとに貸して欲しいといっても拒否。その理由は、その女性が「熱帯」を読み終わることはないからだといいます。
なぜなら、その「熱帯」という本は誰も最後まで読んだことのない謎の本だというのです。
この、「誰も最後まで読んだことの無い本をめぐる話」というあらすじだけでもそそられるものがありますね。
森見登美彦作品でもっとも不思議な小説「熱帯」の感想
これまでの森見作品の中でもっとも不思議な小説「熱帯」の感想
これまで、誰も最後まで読み終えたことのない不思議な本「熱帯」。
その不思議な本をめぐって様々な話が展開していくのです。
今までの森見登美彦作品とは一風違ったテイストだなという感想。
「夜は短し歩けよ乙女」や「恋文の技術」系の笑いを交えた感じではなく、かと言って「きつねのはなし」系の怪談めいたわけでもない。
けれども、これまでのどの作品よりも「熱帯」は不思議なはなしという印象を受けました。
森見作品の不思議さを凝縮させた印象
エッセイ以外はすべての森見作品を読んでいますが、これまでと一風違うテイストであり、これまでの作品のテイストをうまく融合させているような感想を持ちました。
あえていうと「夜行」に近いかも。「熱帯」には怪談の要素はありませんが、不思議であったり、若干の不安を覚える作品。
いままでの怪談系の話では、現実のすぐ隣にある別次元みたいな怖さがありましたが、そこから怖さをとって「四畳半神話体系」などの若干ファンタジーめいた空間を組み込んだ感じ。
だからこそ小説全体の感想としていままでの森見登美彦作品で一番不思議な印象を受けるのです。
「千一夜物語」や「はてしない物語」にも通じる入れ子構造
この「熱帯」には「千一夜物語」についてなんどもでてきます。ある種キーとなる作品。
私は「千一夜物語」をきちんと読んだことがなく(小学生向けのやつを20年くらい前に読んだっきり)はっきりとは知らないのですが、読んだことのある人にはより深く楽しめるかもしれません(「熱帯」内で「千一夜物語」の簡単なあらすじは語られています)。
わたしはそれよりも映画「ネバーエンディングストーリー」の原作である「はてしない物語」のような感想も受けました。
虚構と現実があやふやになる摩訶不思議な小説「熱帯」
だんだんと虚構と現実の境目があやふやになる不思議さ。主観は今いったいどこにあるのか、誰のはなしなのかということがふとした瞬間にわからなくなります。
読み進めていくうちに、森見登美彦先生が作り出す、奥深い迷宮のような不思議な世界に引き込まれていく感じ。
我々が「熱帯」という本を開くと、そこには「熱帯」という摩訶不思議な本をめぐるはなしが。
読者は、小説中に登場する「熱帯」をめぐる登場人物たちと同様に、あやふやで虚構と現実の入り混じった空間に放り出されるような感想を持つかと思います。
むかし「はてしない物語」に感じた、不思議な没入感を思い出す小説でもありました。
森見登美彦ワールドにぐいぐいと引き込まれる小説
「熱帯」の表紙には無人島のようなヤシの木の生えた本の上で体育座りする男が描かれています。
人によっては森見登美彦作品には「夜は短し歩けよ乙女」のような中村佑介さんの絵のイメージを持っているかもしれませんが、「熱帯」にはこの装丁の雰囲気がぴったり。
ぽややんとした不思議な印象のある表紙とでもいいましょうか、そんな感想。「熱帯」という作品自体、不思議で引き込まれるけれども、そこには森見登美彦作品独特のぽややんとした感じがあるのでほのかに和みます。
ちなみにカバーをとると、小説内で描かれている「熱帯」をイメージした表紙が。こちらもレトロな雰囲気でいいですよ。
500ページ越えの本ですが、その不思議な内容にぐいぐい引き込まれて一気に読み終えました。
「熱帯」はこれまでの作品と同様、森見登美彦ワールドにぐいぐい引き込まれる爽快感もありますよ。
森見登美彦先生は新たな境地を開いた感じもして、これからの作品もますます楽しみです!